(お助けヒーローは貴方)


 最近は、どうにもイラついて仕事が捗らなくなった。それもこれも、原因はあの日本人の女の所為だ、と俺はまた舌打ちをした。ジョットと同盟を結んだファミリーのボスで、二十歳は超えているが外見は少女といえる。シャツにネクタイ、パンツスーツ姿で、髪を高い位置で結い上げているソイツは華奢な体つきで小柄だが、どこか気品を漂うものがあった。だが、それが仕事に取り掛からなくなってから早1週間がたとうとしている。

「G、かなりイラついているみたいだけど」
「アイツの所為だ」
「名前かい? もう部屋に籠って1週間だからね」

 ジョットは苦笑して紅茶を口にするが、俺はそんなに落ち着いていられるジョットを睨みつけた。

「ったく…お前はアイツを甘く見過ぎだ」

 ジョットは日本が好きで、日本人である彼女に甘い。というか極稀にセクハラに近い。雨月にも甘いが、彼女にはもっと甘く仕事が捗らないのはジョットの所為でもある。そして彼女が部屋に閉じこもった原因はなんだと訊ねに来たのだが彼にも分からないという。

「Gが聞きに行ったらいいんじゃないか?」
「何で俺が」
「他の奴が行っても甘やかすだけだろう? お前だけが頼りなんだ」
「……仕方ねえな」

 大きな溜息をついた俺はソファから立ち上がり、部屋から出た。そんな俺の背後でジョットが微笑んでいたとも知らずに。



■  □  ■




 彼女の部屋の扉を軽くノックする。だが、返事はない。俺は一つ舌打ちをしてもう一度ノックするが、やはり返事はない。手段は選ばないので、思いきり扉を蹴り開けた。そしてズカズカと部屋へ入れば、椅子に腰かけ俯いているそいつがいた。

「おい…おい!」
『…G、さん?』

 声で認識した彼女は、顔を上げる事はなく物々しい雰囲気を醸し出しているだけだ。俺はその姿に苛々して腕を組んでそいつを睨みつける。

「いい加減に部屋から出て仕事に戻れ。書類が溜まりに溜まって減らない」
『………』
(無視かよ…)

 チッと舌打ちをしてそいつの胸倉を無理矢理つかんだ。ふと曇った光の灯らない瞳と視線があった。怯えた様子も特にない。

「いい加減にしろ。俺もジョットも困ってるんだ」
『……困ってるのは、こっちですよ』

 その曇り空のような瞳からただ静かに涙が伝った。

『ジョットさんのセクハラ、どうにかしてくれなきゃ、私だって仕事できませんよ…』
「……は?」
『だから…ボスのセクハラ、何とかして下さい。もう外に出るのも怖いんですよ』

 …つまりだ。話を聞いて行けば、ジョットがこいつに対するセクハラが酷くなったらしい。それでジョットに会うのを避けるために外に出ることを拒絶したのだという。だが、部屋に置いてある電話で、毎日言葉攻めを食らっているらしく精神的にも肉体的にも疲労が溜まったのだ。その為部屋からも出れず、仕事にも手が出ない状況だった、と。

「チッ。結局はアイツが原因かよ…」
『…すいません。ご迷惑をおかけして』
「お前もお前だが…一番の原因はジョットにある。謝る必要はねぇ」
『…でも。多少は支障を出してしまいましたし』

 此処まで落ち込む、というか消極的になるコイツを見たのは初めてだ。俺は女との付き合いなどほぼない為、どう接していいか分からない。こういうとき、女とは面倒だとつくづく思う。

「今から挽回すればいい。俺からジョットに言っておく」
『有難う、御座います』

 小さく頭を下げたソイツからふいに視線を逸らした。コイツとまともに話したのは初めてじゃないか、と思った。そもそも味方かどうかなんて知らない相手に、俺は守護者も仲間も信用に値しない。だからコイツともまともに話そうとはしていなかったのだ。

『…Gさん、て』
「?」
『ボスの事だけ考えてるのかな、って思ってたんですけど、そうでもないんですね』
「あ?」
『ファミリーのこと、ちゃんと考えてるんだなって』

 そういい小さく笑うソイツはどこか嬉しそうな表情をしている。俺はその言葉に返す言葉が見つからず、ソイツの頭を乱暴に掻きまわした。



(ていうか、アイツはセクハラで済まねえだろうな)
(というか、もうストーカーでいいと思います)
(…警察に突き出すか)
(アラウディさん呼びましょう)

***
2010/12/25



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -