あぁ、今日も海は穏やかだなぁ…ってしみじみ船医室で呟いた。このキッド海賊団の船医になって早1年が過ぎた。この船は個性的な集団の集まりで、溶け込むのはそんなに大変でもなかった。
それに、料理人であるルネさんに色々教えて貰ったり大変世話になっている。見た目と違って親切でいい人たちの集まりが、このキッド海賊団だと思う。
と、思っていたら船医室の扉がコンコンとノックされた。「はーい」と返事をすれば、扉が少し開いてルネさんが顔を覗かせた。

「メリアちゃん、美味しいケーキ焼いたから一緒に食べましょ?」
「本当ですか!? 食べます!」

目を輝かせてルネさんの後ろについていけば、楽しそうに笑うルネさん。そして厨房に入れば、そこにはケーキがある筈…だった。

「あれ? おかしいわ…確か、ここに置いといた筈なんだけど」

テーブルの上に置いておいたと言わんばかりにルネさんは不思議そうに首を傾げた。私はテーブルの周りを一周してある事に気がついた。

「ルネさん、今日のケーキってガトーショコラですか?」
「えぇ。でも、どうしてわかったの?」

私は「これです」と言って床に落ちている小さなケーキの欠片を手に取った。ルネさんはそれを見て「成程ね」と納得する。

「でも、私は溢したはずはないんだけど…」
「綺麗好きのルネさんなら、溢してもすぐ気付くと思いますし…もしかして」
「「盗まれた?」」

私たちは顔を見合わせて同じ答えを出した。ルネさんが私を迎えに来ている間になら盗むことは可能だ。

「お頭…また盗んだ」
「お頭が盗んだ事は決定済みなのね…」

私の呟きに対して、ルネさんは苦笑気味に言った。どう考えても盗み食いをするのはお頭しかいないと思うのだ。私は「よし」と決意してケーキを奪還しに行くことに決めた。

「ルネさん、ケーキ奪還しに行きましょう!」
「そうね。私が折角メリアちゃんと一緒に食べようと思って作ったケーキだもの! 取り返しに行かなくちゃ!」

私とルネさんは大急ぎでお頭の部屋へと向かった。お頭の部屋の扉を私は乱暴に蹴飛ばして開けて中に入る。

「お頭! ケーキ返して下さい」
「…は?」
「だから! 私がメリアちゃんと食べようと思って作ったケーキですよ!! ガトーショコラの!」

そうルネさんが言うと、お頭は「あぁ、あれか」と言った。その言葉にルネさんは少し青ざめてお頭に訊ねた。

「も、もしかして…食べ終えたんですか…?」
「あぁ、食った。甘さが足りなかったな」
「そりゃそうですよ!! 甘さ控えめで作ったんですから!!!」

やはり食後だったか、と私は頭を抱えた。折角楽しみにしていたケーキはパァになってしまったのだ。ルネさんは凄い剣幕でお頭と言い合っている。すると、小さくコンコンと部屋の壁を叩く音が聞こえた。音の方向を振り向けばキラーさんがいた。

「キラーさん、どうしたんですか?」
「騒ぎを聞きつけたクルーが呼びに来てな…。今日は一体どうしたんだ?」
「キラー、聞いて!! 私が作ったケーキ、お頭が盗んで食べたのよ!!」
「テーブルのど真ん中に置いてりゃ、「はい、どーぞ」って言ってるもんだろーが!!」
「だからって勝手に食べないで下さい!! 今日の晩御飯抜きにしますよ!!」

ギャーギャー騒ぐ二人を傍観者のように見ている私とキラーさん。キラーさんは呆れ混じりの溜息をついて言った。

「まったく…。メリア、ケーキならあるぞ」
「え? どういう事ですか?」
「ルネのじゃないがな。俺がキッドに頼まれて買ってきていた数量限定のケーキがある。それを食べればいいだろう」
「わぁ、頂きます! ルネさんのケーキが一番好きですけど、買ったケーキも食べたいです!!」

キラーさんは満足そうに笑って(笑ったと思われる)「行くぞ」と言った。私は「少し待ってて下さい」と返して、ポケットから注射器を取り出す。そしてブスッと盛大な音を立ててお頭の腕に麻酔&睡眠効果の薬を投与した。

「てめっ、メリア…!!」
「お休みなさい、お頭。薬の量は適当なんで、きっと明日には目が覚めますよ。さ、ルネさん行きましょ」
「ホント、メリアちゃんには頭が下がっちゃうわ。では、お頭お休みなさい♪」

そう言ってお頭の部屋を出て私たちは厨房へと向かう。

「てめぇら覚えとけー!!!!」

お頭の叫び声が聞こえてきたのは、きっと言うまでもないでしょう。お頭の部屋の前を通りかかったクルーの話によると、その後爆睡してたみたいです。私たちはお頭の美味しいケーキを頂きました。



---アトガキ---
1話目からケーキ奪還のお話です(笑
やっぱり食べ物の恨みは恐ろしい…
そしてルネ嬢からケーキを盗めるのはキッドしかいないと思う
キラーはキッドじゃなくて女性の見方♪
うちのキラーは女性には優しいキャラだと思う…時々鬼畜←

100819

魅せられる煌めきは色褪せずにA



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