眠い。物凄く眠い。車の五月蝿いほどのミュージックを助手席で耳に通しながらも、それを掻き消すほどの眠たさに襲われた名前は、かくんと頭が上下に揺れて本当に小さな溜息を溢した。それを見たのか、はたまた溜息を聞いたからなのか、後部座席の真ん中に座る花菜は笑った。

「先輩眠いんですかー?」
『……めちゃくちゃ』
「あららー。でも、こんな爆音じゃ眠れないですよぉ?」

 楽しそうに笑っている花菜を見ることもなく、名前は小さく頷いて見せた。すると運転席に座っていた雲雀がチラリと横目で彼女を見やった。

「絶対眠れる」

 確信を持って行った小さな彼の呟きを、彼女が聞き逃す筈がなかった。彼女は幼い頃からどんなに五月蝿く騒いでいる車の中でも眠ってきている。眠れない所を上げるとすれば、ホテルのベッドかはたまた猛獣の隣か…。そう言いたげな雲雀の頭を、彼女は軽く音もなく叩いた。それを見て、花菜はまた笑う。

「叩かなくてもいいんじゃないの?」
『なんとなく………』
「そこが先輩っぽいですよねー」

 今この車が走っているのはエジプトの砂漠の真っ只中。砂煙が酷い中を一台のアメ車はぐんぐん走っていく。その車の中には3人の男と2人の女。
 運転席でハンドル切っている男を雲雀恭弥、助手席の女を名字名前。そして後部座席左から、獄寺隼人、藤原花菜、山本武となる。何故この5人が砂漠の真っ只中を走っているかと言えば、話は数週間前に遡る。



■  □  ■




「は? 十代目が砂漠で行方不明!?」

 獄寺の素っ頓狂の叫び声が上がったのはボンゴレ本部であった。話に同席していたのは守護者である山本、雲雀、名前の3人である。赤ん坊からすっかり青年に変わっているリボーンは椅子に座って足を組んだままだ。

「駄目ツナのことだ。のたれ死んでんじゃねぇか?」
「そ、そんな…!」

 リボーンの言う事を真に受けている獄寺を面白そうに見ている山本。雲雀は表情一つ変えず、名前は呆れた眼差しを獄寺に送っていた。

『それで、リボーンさん。探しに行けっていうんですか?』
「あぁ。結構日も経っているからな。これ以上部下に迷惑かけるボスを放っておけねぇ」
『このメンバーで?』そう問えば、小さく首を横に振る。
「いや、これにヴァリアーの花菜を入れたメンツで行って貰う」
「小僧、出発は何時だ?」

 青年姿のリボーンを小僧と呼ぶ山本は、悪気があるわけじゃない。

「明日」
「ワオ。随分唐突だね」
『……了解しました、リーさん。早々に連れて帰って来ますよ』

 名前は仕方のないボスの10年前を思い浮かべながら小さく嘆息した。



■  □  ■




 と言う訳で、今この5人は砂漠の真っ只中にいるというわけである。助手席に片足を乗せて煙草をふかす獄寺は、ボスがいないせいか苛々した様子が見える。一方、花菜を挟んで隣に座る山本は何やらとても楽しそうで旅行気分である。隣に座る花菜もだ。

『………花菜』
「なんですかー?」
『平気?』

 それは男二人の間にいることを示すのか、はたまた獄寺の煙草のけむたさを示すのか。どちらを問われているのか、はたまた別のことを問われているのか。分からない花菜は小首を傾げて数秒ののちに答えた。

「グ……グッジョブ

 その返答に名前は思わず噴いた。目が少し覚めたと言ったところだろうか。隣に座る獄寺は花菜を一瞥した後、窓の外へと視線を戻して呟いた。

「何がよくやった、だよ」
「ご、獄寺さん!!」
「ははっ。花菜らしいのな」
「山本さんまで!!」
「この流れでグッジョブなんて言った人間、初めて見たよ」
「雲雀、さん…」

 どこまでこの男共はか弱い女性を虐め倒したい、というよかいじり倒したいのだろうか。そこですかさず口元に笑みを浮かべた名前が助け船を出した。

『可愛らしいじゃん』
「先輩…!やっぱりあたしの味方は先輩だけです!!」
『ははっ。アンタの一番の味方はベルさんでしょう』

 そういうと、花菜は可愛らしく顔を真っ赤にさせた。そんな花菜はボンゴレファミリー最強と謳われる独立暗殺部隊、ヴァリアーの幹部だ。
 元々花菜は日本生まれ日本育ちの平凡な家庭に生まれた子だったが、その後バベルファミリーに入りマフィアとして裏の世界で生き始めた。だが中学時代に起こったボンゴレリング争奪戦の最中、ベルフェゴールに恋をしてしまった。
 その後ヴァリアーに入りたいと駄々をこねた花菜を、名前は溜息交じりに面倒を見たのだ。その花菜が英語もダメダメだったのに7ヶ国以上の言葉を話せるようになった。
 今じゃ、言語の立場的には花菜の方が名前より上の位置に来ている。だが暗殺部隊に入隊しても彼女はボスであるザンザスのパシリである。
 まともに人の血も見れなかったのが原因らしいが、今じゃ人の血を見ても倒れないし怯えなくなった。恋とは人を変えてしまう恐ろしいものだと、改めて名前は気づかされた。
 そんな後輩と今回の仕事を久しぶりに共にすることになり、名前は懐かしく思っていたのだ。すると昔懐かしむ名前の頭を、シートに乗せていた獄寺の足が蹴った。

「てめぇが似合わねぇこと言うからだ、馬鹿」
『まだ何も言ってない…』
「物言いたげな表情してんのがミラー越しにわかんだよ」

 そんな二人を見て花菜は真っ赤にしていた顔を青に変えて焦った調子で止めに入る。

「獄寺さん!名前先輩はそういう言葉が似合わない人かもしれませんけど良い人です!
『……花菜。それは人を褒めてんのか、馬鹿にしてんのか、どっち

 抑揚のない声音の名前に、「フォローになってなかったな」と笑う山本。花菜は顔から色を失くしてごめんなさいと何度も叫んで謝れば、隣の獄寺が喧しいと寄り一層大きな声で叫ぶ。すると運転していた雲雀が片眉を顰めて「五月蝿いのは君たちだよ」とごちれば、獄寺はダイナマイトを用意するわ、雲雀はハンドル無視してトンファーを手にするわ、山本は笑って仲裁に入るわ…とにかく車の中で大騒動。花菜はお得意の貧血を起こしてシートにもたれかかり、名前は眠いと窓に寄りかかった。そんなこんなで、この大騒動物語は幕を開けた。



---アトガキ---
ということで、8年後で連載開始!
ことの始まりはやはりツナで!
多分、このエジプトは獄寺編…と考えるべきか。
まだまだ分かりません。どれくらい続くのかも…。
やるだけやってみます!

110101

復活大人メンバーでなんやかんや@



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