『ったー…今日も良く書いたー』

 そういいぐっと背伸びをするコイツに、俺は溜息をついた。今日の部活は早めに終わって、夕方に帰れることになり今は日が沈み始めた頃だ。俺とコイツが二人で歩いていても、特に何も言われないのは1年からの付き合いだからだ。1年の頃は、それは色々あったもんだが、今じゃそれも無くなった。…一理に、跡部部長のおかげとでも言っておこう。

『キノP? どうかした?』
「だからそう呼ぶのはやめろっつってんだろ」
『はいはい』

 コイツほんとに分かってんのか、と言いたくなるほど適当な返事をしてきた。

「向日さんと何話してたんだ?」
『んー、秘密ー』
「重大な内容なんだな」
『ふふっ。ちょっとねー…でも』

 その内、日吉くんにも分かる事だからさ。そう少し下がった位置で言った名前に俺はなんだか違和感を覚えた。日吉くん、とコイツは口にした。滅多に俺の苗字を呼ばないコイツが。そう思っていると、心配したのか名前は笑って俺の手を引いた。

『さぁーって! キノP!』
「なんだ」
『あの夕陽に向かって走るぞー!!』
「誰が走るか、お前は馬鹿か」
『…随分なダブルパンチだこと』
「効いたみたいで良かったぜ」

 ふっと鼻で笑えば、不服そうに唇を尖らせる名前。お前は何歳児だよ。そう思い、芥川先輩から貰った飴のことを思い出し、ブレザーのポケットに手を突っ込む。引っ張りだしたピーチ味の飴を放り投げれば、見事にそれをキャッチして俺と飴を交互に見た。

『え? 何? 貰っていいの?』
「他にリンゴとレモン貰ってんだ。一つくらいいいだろ」
『…そっか。ありがと』

 「頂きます」と言ってすぐに口に放り込む名前。暫くは静かになるだろう。名前の肩にかけた鞄は、飾り気のない鞄で、ストラップの一つも付いていない。興味がないわけではないだろう、現に教室で女子の鞄についている人形の話をしていた。ただ、コイツは付けるのが面倒くさいとか重くなるとかいう理由で付けてないんだろう。取っ手の所に青色の絵の具がついているのは、時々汚して放置するからだろう。といってもその汚れは確か1年の時に付けたものだった気がするが。鞄を変える気はないみたいだ。

『…どーかした?』
「いや…飾り気のない鞄だな、と」
『だって面倒だもーん』

 ほらな。いつも通り同じ答えが返ってきた。

「まあ、お前らしくていいと思うが」
『…キノP、どっか打った?』
「なんでだ?」
『今日はやけに喋るから』
「………そうか?」

 俺自身、あまり意識はしていなかったことを言われて少し動揺してしまった。確かに、俺はそこまで喋らない。教室ではこいつとクラスメイトとは軽く話すだけ。後は殆ど読書の時間をとして休憩時間を使っている。

『ま、いいけどねー。珍しいけど。明日は台風でも来るかなあ?』
その口塞ぐぞ
『ははっ。じょーだん、じょーだん』

 そう言ったきり、口を閉ざしてしまった名前に俺はやはり違和感を覚える。いつもなら、ここで☆マークがつくか、「でもやっぱり怪しいわー。ねじでも外れた?」と火に油を注ぐことをいうかする。それを此処で止めてしまうあたり、おかしすぎた。なにか、あったんだろうか?

「……名前」
『Σうわぉう!! なん? 名前で呼ぶなんて珍しい。やっぱ嵐が?』
「煩い、黙れ。ったく……人が折角心配してやったのに」
『…へ? 心配? …なんか心配されるようなことあったっけ?』
………やっぱ何でもない」
『ええー? 変なキノPー』
いいから黙れ

 やっぱりコイツはコイツだと思った帰り道だった。



日吉と隣の席の奇人B



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