おやすみ、ナイトメア
生きるか、死ぬか。生死をかけた、デスゲーム。
見出した役者達に、それは不敵な笑みを浮かべる。
「生きることと、遊ぶことは同じなんだよ」
――霧崎第一高等学校。
昇降口付近に設置された自動販売機の前に佇む更紗は何を飲もうかと――正式にはホットココアとホットミルクティーで悩み決めあぐねていた。そしてよし、今日は珍しくココアにしようとボタンを押そうとした瞬間、健康的な肌色の武骨な指がそれを遮る。
ピッ!という機械音を取り出し口に落ちてきた缶を拾った大きな手は、更紗の冷え切った掌の上へとそれを乗せれば「ぅおっ」と驚きの声を上げる。「冷てーな、オイ」
『冷え性だもの、仕方ないよ。あ……ミルクティー』
「あ、ミルクティーじゃなかったか?」
『今日は気分転換にココアにしようかと思ったんだけど…』
「まじか…悪ィ」
『ううん、どっちでも良かったしいいよ。ていうか、弘くんいま部活中じゃないの?』
突然現れて勝手にミルクティーのボタンを押した更紗の彼氏である山崎は「体育館の自販機スポドリ切れてたんだよ」と口にしながら目当てのものを選択する。
彼の所属するバスケ部はWC予選で敗退し、WCが終了してからというもの、やけに気合の入った練習をするようになった。山崎曰く「あー…気合の入れる方向は間違ってると思うけどな」とのことで、更紗自身もバスケ部の非道ぶりは知っているのであえて突っ込むことはしない。
「つか、いままで何やってたんだ?」
『生徒会の仕事。ひっさびさに骨折れる作業だった』
「そりゃお疲れさん。暗いから気ぃつけて帰れよ」
『そーする。…あ、でも今日練習見て行こうかな』そういった瞬間、山崎は短い眉を顰める。
「馬鹿、寒ぃからやめとけ。ホッカイロあんのか?」
『あるある。それにジャージもあるから大丈夫』
「寒くねぇように着こんどけよ」
『はーい、お母さん』
「誰がお母さんだ誰が。…帰り送ってく」
『別にいーのに…ありがと』
そういいながら二人の足取りはバスケ部の体育館へと向かう。館内へと入れば部員達が休憩を終えて練習を再開しようとしているところで、ちょうど目があった花宮に更紗は軽く手を挙げて見せれば彼は目を細めてあからさまな溜息を溢した。「来たのかよ」と悪態づく花宮の態度も気にせず、更紗は笑みを浮かべて声をかける。
『お疲れ、花宮。この前のテスト結果どうだった?』
「わざわざ分かりきってること聞いてくんじゃねぇよめんどくせぇ」
「更紗〜この前貸したCD聞いた?」
「瀬戸、練習再開するぞ。そろそろ起きろ」
「ZZzz……んぁ…」
「後半戦始まるぞ、瀬戸ー」
――ひた……ひた……
話している最中、更紗の耳は不穏な音を捉えて思わず笑みを引っ込め口を閉ざす。『……、』
――ひた…ひた…ひた…
聞こえてくる足音はおそらく自分しか聞こえないものだ。更紗の直感が頭の中で警鐘を鳴らす。
『(え、…まじ勘弁なんだけど…)』
「オイ邪魔だ。突っ立ってねぇでとっととギャラリー行け」
『……え、ああ、うん。ごめん、いま行く』
そう口にした瞬間だった。ぶつん!!と音を立てて体育館が停電する。
「は、停電?」
「あり得な。真っ暗でなんも見えねぇんだけど」
「え、なに、寝すぎてもう夜なの?」
「んなワケねぇだろ」
――ひた、ひたひたひた、
近づいてくる足音がどんどん早くなってくることに、更紗の心音もまた比例するように早鐘を打つ。「更紗、大丈夫か?」と隣から声をかけてくる山崎に応えるよりも早く、彼の袖の裾をぎゅっと握る。
『あー……大丈夫、じゃない、かも。鳥肌やばい』
「…おい、まさか」
『そう、そのまさか』
「いったい何の話してんだ俺らにも分かるように話せバカップル」
「バカップルってww 絶対意味違う方でしょwww」
「原草生やすな! 頭が弱いって言いてぇんだろ分かってるわそんなん!!」
『ヒロくん、うっさい。静かにし「――見ィツケマシタ♪」ッ!』
咄嗟に握った腕の感覚も分からずに、更紗の、否彼らの意識は闇の中へと落ちていった。