あやも様より 『おまえ!よーかいだろ!!』 新学期が始まって数時間。背が低くてそれなりに顔はいい女子から、舌足らずな口調で『よーかいだろ!』と自信ありげにビシィッと指をさして言われた。 どうやら俺のクラスにはとんでもないバカがいる様だ。 「は?」 『そのデカさは人間が成長出来るデカさじゃないもん!おまえ!よーかいだろ!!』 「デカさって…」 それだけか。良かった。本当にバレたかと思った。焦らすなよクソチビ。 「残念ながら俺は人間だ。親父の家系は皆でけぇんだよ。だから遺伝ですー」 『ちがぁああう!!!なまえのパパもでかいけど、おまえはけ、け、桁違いだ!』 「はいはい」 『あ、まてこらよーかい!』 とりあえずアホに構ってやる程俺は優しくないし暇じゃない。新学期始まっての1日目、つまり始業式は式とLHRで終わりだしさっさと帰ろう。アホに構ってやる程俺は優しくない!大事なことだから2回言った。 次の日 「おはー…」 『!きたなよーかい!今日こそおまえの状態をぉ…』 「はいはい解ったから避けろよクソチビ。」 『?!クソチビだと!おまえ!それはよーかいの悪行だな!』 「…アホか」 『ンキィイイイッ!!!』 教室に入るなり例のアホに朝っぱらから絡まれた。今日は悪日だな。とりあえず適当にあしらって俺は席についた。 アホ女は友達に押さえつけられて無理矢理席に連れ戻されてた。 『はなせぇええっ!』 「もう!なまえ!落ち着きなさい!!」 「なまえねぇ…確かに猩影くんは背が高いけど、妖怪な訳ないでしょ!」 「そうだぜ、なまえ。お前がいくら天然で不思議ちゃんでも流石に妖怪まで見抜く目は持ってねぇって」 『ぜったいぜったい!よーかいなのー!!』 もちろんその間もアホ全開だった。 にしても…あいつ。1年の時からあんな感じなんだろうか?ちょっと聞き込みしてみっか。 「なぁ」 「あー?」 「あのアホ…アイツ。1年の時からあんな感じな訳?」 「あほ?…あぁなまえ?ずーっとあんな感じ。背ぇ低いし、小動物みたいにちょこちょこ動いて顔も可愛いのに、なんか残念だって。でもそれも可愛いからって先輩方とか、2年になってからは後輩からも人気あったな。」 「ふーん…」 人間は物好きなんだなぁ…あんなアホ丸出しなヤツの何が可愛いわけ? 「先輩からの告白からも絶えなかったしな」 「あ、アレで?!」 「そ。アレで。」 「じゃあ…彼氏、とか…」 「あー、告白したヤツ片っ端からフラれてた。『なまえは只の人間には興味がないの!なまえは将来火星にいくから!』って何とも言えないフラれ方されてたぜ。」 「……なんだよ火星って…」 「さぁ?」 1年の頃からアホ女を知る友達からの話で解った事は、アホでも可愛いからモテる・将来は只の人間じゃない人間と火星に行く・1年の頃から成長していないって事。 顔は可愛いんだから、もっと現実とか…ちゃんと見ればいいのに。 「(ま、関係ないけど。)」 その後、先生が教室に入って来てHRが始まり、アホ女の頭の悪い声は聞こえなくなった。 「で、今日のLHRでは学級委員と委員会決めをする。なんかやりたいひとー!っつっても100%まともに決められる訳ないだろうから、先生の独断で学級委員決めまーす。」 クラスからはもちろんブーイング そらそうだ。面倒な学級委員になんて選ばれたくなんか… 「あー…あ、猩影!」 「(ビクッ)…なに?」 「今俺と目ぇ合ったからお前学級委員長なー」 「ハァ?!」 「お前俺を熱い視線で見てただろ…?」 「うーわ…さいっあく…」 ボーッと教壇に立つ担任を眺めてただけなのに、学級委員長に選ばれた。やっぱ今日悪日だわ… 「んー…あ、なまえ!お前副委員長!」 『やだ!なんでなまえがよーかいと委員やらなきゃいけないのっ!』 「誰が妖怪だよクソチビ!!」 『チビじゃないよーかい!!』 「妖怪…?なんかよくわかんねーけど、なまえ可愛いから!だから副委員長な!」 最悪。担任の訳が解らない理由から、クラスの学級委員をクソチビとやる事になった。 なんだよ可愛いからって。アホかこの担任。まぁ、そういうテキトーなところが生徒からは人気で、どの学年の生徒からも担任になって欲しいと言われている。 まぁ、俺も嫌いじゃない。話しやすいし、ジュースとか買ってくれるし。うわ、なんか俺って安いヤツだな。 「今日、放課後クラス委員で会議してもらうから放課後残れよー!よし、決めるモノも決めたし…なにするー?」 担任はキャッキャとクラスの生徒達と、余った時間をどう使うかで盛り上がっているが、そこに混ざりたいと思える状況ではない。 何故なら、とんでもなく殺気立って俺を睨むクソチビの視線を回避する事で忙しいから。 なんなんだよあのチビ…! 放課後、担任に言われた通り会議を行う為に掃除をちゃきちゃき終わらせて教室に戻った。ら、居たのはクソチビだけ。他の奴らどこいきやがった… 「…おいクソチビ。」 『なまえはクソチビじゃない!』 「っせーな…他の奴らは?」 『訂正しろよーかい!』 「悪かった悪かった。…てか妖怪じゃねぇって。」 『ふんっ』 どうやら拗ねた様だ。 いや、拗ねたいのは俺だからな。初めましての挨拶より先にお前から言われた言葉はよーかいだからな?わかってんのかお前。 「めんどくせー…で、他の奴らは?」 『…かえった』 「は?!」 『彼氏とでーと行くとか、ゲーセンに入った新しい格ゲーやるって』 「あいつら…!!」 あいつらまじぶっ殺す。明日朝一でやる。ダリーのは解るけど会議くらいでろっつーの… 「…てかお前はなんで帰らなかった訳?」 『よーかいをまってた。』 「…は、?」 え?待ってた?なにこいつ、なに? 実は俺が好きとか?ツンデレ? 『よーかいのせいたいちょーさする!』 「…調査、すか…」 違った… 俺の言葉にキラキラと目を光らせて、ぶんぶんと縦に頭を振るチビは、なんだか小動物みたいでちょっと、かわ…い、い… 『よーかい!お前、人間食べるのか?』 「…食わねぇよ」 『じゃあ、血は?何型の血が美味しい?』 「知らねぇよ」 『…つまらん!今さら人間のふりすんな!』 「だあああッ!俺は人間だクソチビ!!」 『また言った!』 威嚇をする子猫の様に、俺を睨み上げて悔しそうにしてる。ハッ…チービ。 『わかった。』 「あ?やっとわかった?俺はにんげ」 『よーかい!脱げ!』 「………(ゴンッ)」 『いっ…!!』 「堂々セクハラかクソチビ。」 セクハラ発言をしたチビに制裁を加えるべく、握った右手をチビの頭のてっぺんにふり下ろした。 すげーいい音鳴った。 『ちがう!よーかいと人間の体の違いをみるんだ!』 「俺も人間なんだから他の男と一緒だクソチビ!」 『〜〜っ!よーかいの意地悪!けち!ハゲ!うんこ!(ボスッ)』 「っ、いてぇなクソチビ!!」 クソチビは俺の腹にグーパンチを決めて女の子らしからぬ言葉を吐き捨て、ガスガスと大股で教室から出ていった。なんなんだよあのクソチビ…! その日から、俺は『よーかい!脱げ!』と真面目な顔で言うチビに追いかけ回されることになった。その度に俺は人間だ!とか死ねチビ!とか色々言うけど、それも疲れてきた いい加減にしてくんねーかなマジで 毎日毎日よーかいよーかい言われるのもそろそろ限界。家ではバカ親父の世話、学校ではクソチビの相手、まじダリー 「はよー、っす」 「おぉ!猩影おっはー!」 3ヶ月程経ったある日、俺が教室に入ったら必ずある『よーかい!』の声がない。 あれ、あいつ…今日は俺より遅い…? 「なぁ猩影きいたー?」 「なに。」 「なまえっち、今日から10日間学校来ないらしいよー」 「っは?なんで?」 どうやらインフルにかかったらしい。バカでもインフルにやられるんだな。 ていうか… 「(なんで俺、ちょっとガッカリしてんだろ…)」 出来るだけ自然に言葉を返したつもりだけど、ぶっちゃけ、チビが10日間来れない事と、それを知ったときの自分の感情に同様してる。騒ぐヤツが居なくて嬉しい筈なのに 「(…さび、し…?)」 俺、なんか変。 不思議な気持ちを抱えたまま授業を受け、チビが来なくなって1週間が経った。 「よーす、」 「猩影おっはー!」 やっぱり今日も声はない。 なんとなく、今日は居るんじゃないかって思ってたけどインフルになれば10日近く自宅謹慎になるのは当然で。居る訳もないのに期待とかしてた。 「みんなおっはー!HRやるから座れー!」 担任が入ってきてHRが始まる。考えるのは自然とチビのこと。今頃熱で苦しんでるのか?咳は辛くないか?飯はちゃんと食えてんのか?いろんなことを考えた。 俺らしくもねーな。ほんと。 なんとなく、脱け殻みたいになった。 そしてきた、謹慎が解かれる10日目。 なんとなく一番にチビに挨拶をしたくて、いつもよりずっと少し緊張しながら教室に入った ガラッ 「…!」 『!、よーかい!!』 「おま…」 なんでこんなはえーのお前… 『よーかい、今日ははやいんだな!』 「あ、おう…お前も…」 『なまえ、みんなに会えなくてさびしかったからはやくきた!』 「そ、か…」 にこりと笑うチビを見て、嬉しくて、酷く安心した。 あれ…? 『よーかい!』 「あ?」 『おはよ!』 「っ!おは…」 チビの口から出たのはまさかの「おはよう」挨拶なんてしたことねーくせに、なんだと突然。 ドキドキしてる俺もなんなんだ。 そこでやっと解った。 どうやら俺も、物好きなようだ (「なぁチビ」) (『!チビじゃない!!』) (「俺さぁ」) (「なまえの事、好きっぽい」) clap! / BACK / TOP |