▼世界は笑わない
※猩影くんはまだ生まれてません
なんだって私は関東大猿会会長の娘なんだ。これじゃあ私は女として幸せになれないじゃないか……
「なまえーっ」
「クソ親父しね」
「なんでじゃっ!儂はなまえのことこんなに好きなのにっ」
「はいはい、親父は黙ってろ。この親バカがっ」
いや、うん。嫌いな訳じゃないんだ勿論。ただね、ここの長女に生んでくれちゃったことに対して少し不満があるだけで。まぁ、普通に反抗期だと思ってくれて構わない。
父を避けるように部屋を出て…庭で鳥に餌を蒔いていれば、見知った妖気を感じて父から貰った仮面を少しズラした。ズラしておかないと彼奴は邪魔だと言って、剥がして壊そうとするから何よりも厄介だ。
「よっなまえ、今日も変わらずお転婆してるなっ」
「む、鯉伴か。私は別に好きでお転婆してるわけじゃない」
「わぁーってるって」
「……ホントかァ?」
「おう!なまえのお転婆は今に始まったことじゃねぇ…アレだろ?生理で機嫌が悪ぃんだ!」
「違うわボケぇーーーっ!!!!」
なんて節操のない男なんだ。幼馴染みじゃなかったら…父の大将の息子でなかったのなら…自慢の大剣でぶっ殺してやれるのに。
娘の私はというと、のらりくらりする鯉伴と杯を交わそうなんて思いはさらさらない。誰が好き好んでこのふしだらな男の下僕になるものか!
「なぁーなまえー」
「なんだよ」
「俺ぁ、そろそろなまえと杯交わしたいんだがなぁ」
「やだね」
「何でだよ?」
「わざと部下を困らせるような大将について行く気はないってことだよ、ほら。ん」
顎で差した先には急にいなくなった鯉伴を捜していたのだろう、息を切らし、怒り心頭で般若顔の部下、首無がいた。
私はああは成りたくない。しんどいのは嫌だ。父と違って、大将の子守を楽しいだなんてきっと思えない。
「あー首無?」
「ったく貴男という方は!」
「チッ 邪魔しに来やがって」
「りぃーはぁーんーー」
くわばらくわばら。
さて、今日は街に行って新しい簪でも買おうかな。この前戦いの最中に相手に斬られてしまったわけだし。
「あっおい、てめぇなまえ!何処行くつもりだ!?」
「あ?何処だっていいだろ」
「俺もついてく。……って俺の勝手だからいいだろ、そう怒るなって」
「鯉伴様、せめて護衛をつけて下さい!」
「首無ぃ、お前ぇさんも野暮なことすんなぁ〜」
「はぁ!?ふざけんなよ鯉伴、絶対ぇ後付けてやる」
はっきり言って迷惑だ!
私は一人で買い物がしたいんだ。男二人に後を付けられるだなんて真っ平御免蒙るわ。
「あっなまえ!俺を置いてくなよ!首無は置いてってもいいけどよぉ」
「うるっさい、とにかく二人とも付いてくんなっ!」
ったく、ここまで来るとホントいい迷惑もんだ。
鯉伴は何も分かってない。はっきり言って、私は奴の下僕になんか成りたくはない!私は鯉伴が大切だ、父と同じくらい…それは幼馴染みとしてってのも勿論あるけれど。だけど私は…ッ……
「鯉伴の糞馬鹿天然誑し…」
「ひでぇ言い草だな」
「ふんっ」
「お転婆も大概にしろよ、せっかくの美人が台無しだ」
父親譲りの美顔。有り難いが有り難くない。こうして一番の本命を落とす道具の一つにもなりはしないのだから、誉められて嬉しいけど…虚しすぎる。
「アンタは何にも分かっちゃいない…何にも……」
「あ?いきなり何だよ、俺が何を分かってないって?」
「……いや、いい」
話すだけ無駄。それに柄じゃない。
関東大猿会に息子はいない。未来出来るという可能性もないわけじゃないが、今組を護るためにはなまえが次期若頭候補に収まる他ない。
だから女として恋に花咲かせている場合じゃないのだ。それも護るべき頭(まだ杯は交わしていないが)に恋するなんて、そんな馬鹿馬鹿しい話あってたまるか。…叶いやしない、それが理の倣いなのだから。
「なまえ、俺ぁさ」
「おい鯉伴…今夜アンタの杯飲んでやる」
「お前……」
「ただし義兄弟の杯しか飲まねぇ。お前の下僕にはならねぇからな」
どうにもならない想いが苦しいのなら、傍で護れることだけ考えればいい。それだけに誇りを持てばいい。
…全て紛らわしてしまえ
例え相手の気持ちを知ってしまったとしても…運命に従え。全てを偽れ、隠せ、封じろ。
…あってはならないんだ
奴良組に嫁げば組は誰が継ぐ?…私しかいない。継げるのは、狒々の血を持つ私だけなのだから。
「なまえ…」
頼むから、その優しい声で…私の名を呼ばないでくれ……
矛盾だらけのなまえちゃん?
(アンケート参考)
キャラが崩れてないか心配…
mugi.20111104
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