▼曼珠沙華

※悲恋


「なぁアンタは何で奴良組に入ったんだ?」

「クスッ……鯉伴様は何故だと思いますか?」

「さぁな、教えろよ」


分からないから聞いてんだ、と鯉伴は太々しくキセルを蒸かした。


「…曼珠沙華です」

「は?」

「彼岸花のことです」

「それがどうかしたのか?」

「別名…死人花」

「んだよそれは…」

「鱗茎に有毒があることや、持って帰ると火事が起きたりと不吉なことが起きる事から…そう呼ばれるんですよ」

「ふーん、で?それが奴良組に来た理由になんのか?さっぱり分かんねぇが」


分からないと言いながらも顔に苛立ちや不機嫌さは見受けられない。むしろ先を話せとワクワクしているようだった。

なまえは小さく微笑んで、昔の話をし始めた。


***


「アンタそんな所で一人、何やっとるんじゃ?」

「別に、ただ空を見てるだけだよ。悪い?」

「いんや、悪かぁねぇが、一人だと寂しくないかい」

「そうでもないよ。私は一人が好きだから」

「嘘つけぃ、一人になりたがる奴はいても本当に独りが好きな奴ぁいねぇよ」

「………」

「アンタ妖怪だろ?来いよ、もっと広い世界を見せてやる」


いきなり現れた男は遠慮もなしになまえの心にズカズカと入り込んできた。それでも、彼の不躾に迷惑だとも嫌だとも思わなくて、不思議と心休まるものがあった。


「出入りにいく。なまえ、お前も来い」

「はい!」


なまえは妖怪…人々の曼珠沙華への怖れから生まれた悲しい妖怪。

美しい風貌の中に確かな有毒を隠し持ち、傷付けよう者なら紅蓮の焔で焼き尽くした。

その実力は奴良組の中でもトップクラスのものだった。


「ぬらりひょん様!」

「おぉなまえ、そんなに慌ててどうしたんだ?」

「雪麗さんに聞きました。…結婚、するんですか?」

「そういやお前にはまだ言ってなかったな」


気が遠くなるのが分かった。

誰にも手を差し伸べられずに暗闇の中にいたなまえを救ったのは間違いなくぬらりひょんで、なまえは彼に出会ったあの日からずっと内に慕ってきたのだ。

せめてそういう話は本人の口から聞きたかった。他人の口から聞いたものを、確かめるために本人から聞くなんて…

彼は残酷な妖怪だ。
いやなまえが勝手にそう当てつけただけで、きっと彼は何も悪くはないのだろう。

それでも諦めきれない心は彼を悪者に仕立て上げる。


「そうですか、お幸せに」


上手く笑えているかなんて、なまえの知る所ではない。

ただ彼が好きだった。きっとこれから先も、変わらずに彼を慕っていくのだと思うと報われないと心がキリキリ痛んだ。


***


「なんだアンタ、親父のことが好きだったのか」

「そうですね、私は彼を護りたい。他の何を誰を犠牲にしたとしても……その想いだけではやっぱりダメですかね?」

「さぁ?まぁ、いいんじゃないの?アンタが苦しくないならねぇ」


片目を閉じて粋に言う彼はきっと優しい子なのだろう。彼に似て、彼女に似て…


「あぁそうだ!彼岸花の話、少しだけなら知ってるぜ」

「へぇ、どんな?」

「あんまり知られてねぇ彼岸花の花言葉…あんたにピッタリなんじゃねぇかい?」


あなた一人だけを想います





長い…只ひたすら長い(>_<)
この話、結局最後の花言葉が言いたかっただけだったり←
その内書き直し組ですね^^;


mugi.20111009







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