桃色チューリップ(1)
カラス天狗が子、三羽鴉長男の黒羽丸に嫁いで早1ヶ月以上が経とうと言うのに霖音の日常に変わった事はさして無かった
「おはよー、行ってきまーす」
霖音は以前と変わらず人間の生活に身を置き高校に当たり前のように通っている
何故わざわざ人の生活に関わるのか、と周りの妖怪たちは何度も霖音を非難したのだが、その本人は寸分も耳を傾けない上に微塵も気にしないため…毎度何の意味もなさずに終わり、今ではもう誰も咎めるなんて野暮なことはしなくなっていた
「霖音様お待ち下さい」
「ほらほらっ遅刻しちゃうよ」
「お鞄お持ち致しますっ」
「え、別にいいよ?自分で持つ」
「しかしっ」
「あー…ね、黒羽丸」
「はい?」
「持たなくていいから、学校まで手…繋ごう?」
「そ、そんな恐れ多い」
「………」
ここはもう自分たちの屋敷ではなく人も普通に通る道端だと言うのに、黒羽丸は霖音の忠実な側近をそつ無くこなしていた
霖音にとってそれは機嫌を損ねる要因にしかなり得ないのだが仕事だからとやむなく妥協せざるを得ない
しかし我慢は出来ても、やはり納得は出来ないもので不満は積もる一方だった
またそんなことは露知らず、黒羽丸は真っ当に仕事をすることに誇りさえ覚えてしまっているのだから、霖音はもう苦笑する他ない
登下校をする度に苦笑が零れた
―朝のHR前の時間―
「ねー黒羽丸、」
「はい何でしょう?」
「何回も言うけどさ、ソレ、止めよう?呼び捨てで呼んでよ」
「う、それは…」
毎日のように尋ねる内に、ソレは暗黙の了解で分かり合うようになってしまった
「黒羽丸は立たせるべき夫で、本来なら私が敬語を使うべきなの。でも黒羽丸がずっと使うから…使いにくいよ」
「そんなっ霖音様が敬語を使う必要はありませんっ」
「………」
これでは何も変わらない
霖音としては、主と僕のような主従関係はもう終わりにしてしまいたいのだが…
「よし、わかった!」
「霖音様?」
「黒羽丸が様付けで呼ぶ内は返事しない。喋らない」
これは霖音にとっても苦肉の策だったが、しかしコレを少し我慢して敬語でなく対等に話してくれるようになるのなら…それは我慢をする価値があるものだと考えた
「じゃーね、お先に」
ポカンと口を開けて呆けてしまった黒羽丸を置いて、霖音は自分の教室に帰るのだった
「霖音様っ!それは、つまり…どういう意味ですかぁぁぁぁぁ」
数分後…違う階にまで黒羽丸の叫びが響いた
彼は父に似て真面目すぎる所があると思う
でもそこがキュン(萌) ←
うちの黒羽丸は生真面目でヘタレで照れ屋なんです!\どーん/
20110925
20120117 改
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