あの子の代替品 | ナノ




#静雄が二重人格



 ねっとりと絡みつくような口付けをした。もちろん抵抗され、多少殴られたりもしたが俺はそれをやめなかった。思えば静雄とこうやってキスをするのは初めてだったかもしれない。戸惑い、大きく見開かれた彼の瞳がそれを物語っていた。とはいえこの身体はもともとシズちゃんのものなんだ、それも違うか。
 息遣い、肌の感触、唇からうっすらと漏れる喘ぎ声、すべてシズちゃんと同じものなのにどこか違う。あの子とこいつとは別人格なのだからそれもそうかもしれないが、何か。そこに俺を惹きつけ、興奮させる材料があったのだろう。静雄を抱くという行為はシズちゃんとの単純なセックスより遥かに魅力的だ。

「てめ、正気か、よ! きもちわり……さわんな……っ」
「いつもシズちゃんとやってることじゃないか、今さら何言ってるの」
「俺はあいつとはちが……っひ」

 薄い胸板に唇を寄せただけで上がる悲鳴はシズちゃんのそれとはまた異なって心地がいい。恥ずかしがりはするけど別に嫌がらないからなあ、あの子は。抵抗されると火がつくというけれどそのとおりだと思った。屈辱に歪む表情。馬鹿みたいに必死で歯を食い縛って、そんな目で見たって俺を煽るだけだっていうのに。そういう妙に間の抜けたところは変わらないんだね。元は平和島静雄というひとりの人間であるのだからその本質は実のところは似通っているのかもしれない。何にしろ、俺はこの生き物をひどく愛しいと思う。
 いつもは彼に俺の前で自ら身に纏うものを脱がすよう命じて羞恥に染まるその顔を見るのを楽しみにしているのだが、どうせそんなことを言ったところで静雄が聞き入れるはずもない。それはそうだ。同じ反応をされたらつまらない。そのためにこいつがいるんだ。
 知り尽くした筋肉の隆起を確かめるように舌でなぞっていく。俺の下で意味のない抵抗を繰り返す静雄を嘲笑うかのようにバックルを外し、ベルトを引き抜いた。それは恐怖なのか、期待なのか。一瞬動きを止め、添えられた手を振り払おうと再び暴れ出す。学習くらいしろよ。お前が俺に敵うはずがないのに。

「おとなしくしなって。セックス、好きだろ?」
「知るか、っ、あ、ふざけんな、……!」
「俺、うまいし。大丈夫だよ」

 にっこり、表面上でだけ笑って、ずり下ろした下着の中から見慣れたそれを取り出す。ほら、嫌がってるくせに身体はちゃんと反応してるだろ。当たり前だよ。シズちゃんの身体なんだから。俺に何回も何回も抱かれて、俺に開発された、俺のかわいいかわいいシズちゃんの肢体。中身が入れ替わっただけで身体が入れ替わるわけじゃないもんなあ、そこがまたおもしろい。
 初めてなのに気持ちよすぎて、どうなるか自分でもわからなくて、怖くてたまらないんだろう、静雄。安心しなよ。お前はシズちゃんじゃない。シズちゃんの代替品にも満たないただの玩具だ。だから普段シズちゃんにできないような、ひどくて痛いことをしてやろう。とびっきりの恐怖で支配してやろう。俺の大切なシズちゃんには間違ってもそんなことできないからねえ?

「ひぎいっ! あ、ああっ、い、い、た、ぁあ」
「ちょっと……もっとシズちゃんみたいなかわいい声出せないの、萎えるんだけど」
「や、……やめ、あ、くるし、っ……抜け、よ、ひああっ」
「まだ入れたばっかりなんだからそんな情けないこと言わないでよ。あ、処女卒業おめでとう」
 厳密にいえばこれはシズちゃんの身体と同じものなんだし、処女なんて俺がとっくに奪ってしまったわけなのだが、こうやって痛みに呻いている静雄に精神的ダメージを食らわせるのには十分すぎる言葉だ。しかしここまでされてもまだ暴れるとは、本当に躾のなってない野獣と変わらないな。真っ白い太腿に指を食い込ませて押さえつけたところでようやくだいぶ静かになったけれど。
 でも、さすがに慣らすくらいはしてやった方がよかったかな。何の前触れもなくぶち込んでしまったから皮膚が裂けて流血している。次からはシズちゃんの身体だということを考えてもう少し慎重に扱わないと。熱に浮かされた頭でそんなことを思いながら容赦なく腰を揺さぶった。相変わらず色気のない声を上げて静雄は啼き喚いていたが、まあたまにはこういうのもそそるかもしれない。
 愛のあるセックスがそりゃあ一番だけど、俺だってシズちゃんをレイプしてやりたい衝動に駆られたことが何度もあったわけだし。静雄みたいなのはつくづく便利な生き物だ。自分の中のどす黒い感情が抑えきれなくなったときに適当に呼び出して気の済むままに犯せばいいだけなんだから。本当、そういう意味では可哀想でたまらないよ。

「ほら、さっさとイっちまえよ」
「っあ、そ、な、あっ、く、ふぁ、ア、あああっ!」

 だからといって愛してなんかやらない。俺が愛してるのはシズちゃんだけだ、残念だけどお前のことなんてこれっぽっちも好きじゃないよ。ただこうやってたまに性の捌け口にはしてやるけどさ、アハハ。
 種を注ぎ込まれ、さすがにぐったりと沈み込んだ重い身体を無理矢理また快楽の波へと引きずり込む。シズちゃんが恋しいなあ、そんな都合のいいことを考えながら。



(110602)





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