甘いものがお好き | ナノ




 仕事で手が離せないというから今日の夕飯は久しぶりにコンビニで弁当でもと、臨也から預かった財布を握りしめて静雄は自動ドアをくぐる。客はまばらで、店員も暇そうにレジの前に立っているようなわりと静まった店内。
 頼まれていた幕の内弁当と、しばらくあたりを見回し目にとまったハンバーグ弁当をカゴに入れ、さっさと会計を済ませてしまおうと足をレジの方へ向けようとして、しかし静雄の視線は色とりどりのデザートが並べられた一角へ釘付けになった。彼の大好物であるプリンはもちろんのこと、シュークリーム、ケーキ、エクレアなど誘惑の対象がじっとこちらを見つめているようで、思わず喉が鳴る。
 臨也から余計なものは買わないようにと釘を刺されていたこともすっかり頭から抜け、手を伸ばした。あと少しで指先が触れようというところで背後からかけられた声にそれも叶わなかったのだが。

「なーにしてるのかな」
「っ、い、臨也……! 仕事は……」
「ついさっき終わったとこだよ。あんまり君が遅いもんだから様子見にきちゃった」

 とは言うものの、臨也の言葉はどこからどこまでが本当か嘘かわからない。もしかしたら仕事をしていたというのは嘘で最初からこうなることを予想していて敢えて静雄を仕向けたのかもしれない。考えたところで真実がわかるはずもないので沈黙し、うらめしそうにデザートコーナーへ視線をやった。
 臨也はそんな静雄を鼻で笑い、ぱっと彼の手から弁当の入ったカゴをもぎ取ってレジへと足を進める。あの残念そうな、寂しそうな表情が見れただけで満足だった。そもそもこんな回りくどいことをしたのだって、愛しい静雄の悲しみに暮れる顔が見たいからというどうしようもなく歪みきった理由からなのだ。

「臨也……なあ、ひとつだけでいいから……」
「ダメだよシズちゃん。約束したでしょ」
「でも……」

 漆黒のファーコートの裾を掴み、訴えかけるような眼差しを向けてくる恋人に臨也はひどく興奮する。自分でも異常だと理解はしていた。それでも致し方ないのだ。

「……しょうがないな、ひとつだけだからね」
「い、いいのか……?」
「そのかわり、あとで俺にも食べさせてよ」

 こっちのデザートをさ、軽く首筋に歯を立てて笑ってみせる臨也に静雄の肩がびくりと跳ねる。それを見てまた心臓が震え、もう息をすることだって苦しい。きっと極上のスイーツはテーブルの上で口に運ばれるそのときを心待ちにしている。



(110530)





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