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「アイス、何がいい?」

 山形に帰る日の前日、もう時刻はすっかり深夜を回った頃だったが、タッツミーに声をかけられ断れるはずもなく。いい歳をした男二人が公園のブランコに腰かけアイスを咥えている様子は実に奇妙なものだと思う。不審者がいると通報でもされたらどうするんだろう、私だって仮にもクラブチームの監督なわけだし、この大事なときにクラブに迷惑をかけるわけには、ああでも憧れのタッツミーと話す絶好のチャンスをみすみす逃すだなんて、などといった葛藤の挙句、今こうして彼の隣に座っている。
 試合のときの緊迫した雰囲気とはまるで違う、別人のような彼がそこにはいた。ぼんやりと夜空を見上げ、ちらちらと輝く星の数でも数えているのか。いつまでも子供のような人だなあ。少し微笑ましく思いながら、奢ってもらったアイスを遠慮がちに口に含んだ。
 まだ季節は初夏といえども空気には若干の湿気が含まれており、肌に纏わりつく感じがする。山形はどうだろう。東北も夏になればそれなりに暑いし、いや、東京に比べたらそうでもないのかもしれない。どのみちしばらくこっちへ滞在する予定はないし関係ないか。あ、東京を離れたらタッツミーにも会えなくなってしまう。寂しいな。そんなことを思ったところでどうにもならないのに、私はまた彼のことばかり考えている。
 あのチームが好きだ。モンテビアの監督としてサッカーに携わることができるのはとても光栄だし、できることならばずっと続けていたいと思う。でも、いざこうしてタッツミーの元を離れる日がくると胸が空っぽになってしまったような感覚に襲われて。ダメだなあ、何をしているんだ私は。こんなんじゃ嫌われてしまうだろう、もっとしっかりしないと。

「ねえサックラー」
「はっ、はい、何でしょう」
「次はいつ会えるかなあ」
「え……えっ?」

 想像もしなかった言葉が彼の口から飛び出た瞬間、私も驚いて変な声を上げてしまって、サックラー動揺しすぎ、くすくすと笑われて顔に熱が集まった。もう、そうやって不意打ちで揺さぶりをかけるのはやめてほしい。心臓がいくつあっても持たないじゃありませんか。あなたといるといつもこんな調子で、そのうちにタッツミーが原因で死んでしまうかもしれないなんて思うこともあったりして。
 でも、うれしい。うれしいです、タッツミー。

「今度は俺が山形まで行こっか」
「そんな! 申し訳ないので私が行きます!」
「えーいいじゃん別に、観光もしたいしさあ」

 だから本音はそっと胸のうちにしまっておこう、彼にバレてしまわないように。



(110518)
title by 伽藍





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