焦燥 | ナノ




 嫉妬していない、といえばそれは嘘だ。実際に今の俺を駆り立てている感情の半分以上は醜く黒い、歪んだそれである。心のどこかではわかっている。どんなに焦がれようと手の届かない、叶わない願いを未練がましくいつまでも抱いたところでどうにかなるはずもない。そのくらい頭できちんと理解している。だけどそれは認めるという行為とはまた違う意味を持っているのであって、だから俺はまだ引きずっているのだと思う。
 そうしてただ闇雲に当たり散らす。彼は何も悪くないのに、なぜだか無性に苛ついて。けれど抑えきれなくなった感情の捌け口にされて、それでも。俺を見つめる瞳は純粋でまっすぐで、また僅かに心が痛んだ。

「っ、も、ちだ、さ」
「名前呼んでる余裕あるんだ? すごいねー」
「あ、う……っ、ひ……」

 本当に学習しない馬鹿な犬っころだな。俺みたいなのにつけいられる隙なんて作るなってあれほど忠告したのに、また。もうこの行為が何度目になるかなんて忘れてしまった。いつも一方的で、突然で、酷いセックスで、それなのに拒絶しない彼に、もしかしたらそういった性癖でも持ち合わせてんのか、人は見かけによらねえな、最初はそう思うこともあった。でも彼と身体を重ねるにつれてその真意が何となく読み取れるようになった気がする。
 正直にいえば知りたくはなかった。何なんだろうな。俺ってすげーわがままで王様気取りだから何でも自分の思いどおりにならないと嫌なんだろうな。椿くんみたいなビビリでチキンのヘタレはおとなしく目に涙溜めて声押し殺して抵抗したいのにできないって素振りで俺に犯されてればよかったんだ。そうすれば俺がこんな思い、することもなかったのに。ふざけんなよ。精神崩壊でもして俺だけの犬に成り下がっちまえよ。ペットのくせに王様の手ェ煩わせるようなことしてんじゃねえよ。椿。

「持田さん、っ、もち、ださ……」
「……うるさい」
「……すき、です……俺、もちださんが、ッ、あ!」
「耳障りなんだよ」

 わけがわからなくなる。こいつのことだけじゃない、自分のことさえも。俺が俺でなくなっていくようで気持ち悪い。吐き気がする。それでもこの関係を絶つことができず、いつまでもいつまでも、俺は縛られている。
 ねえ椿くん、君はこんな俺を好きだなんて戯言を吐くけれど、俺は君のことなんてこれっぽっちも好きなんかじゃないよ。だって俺は誰も信じないし誰も愛さない。俺の世界では俺がすべてなんだ。だから、頼むから干渉してくるなよ入り込んでくるなよこれ以上侵食されたら俺は



(110518)





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