捻くれ者のプレゼント | ナノ




 ねえねえ、達海さんって誕生日いつなの。
 腕組みをしてベンチに腰かけ、グラウンドの練習風景を眺めていた達海の背後から声がかかった。フェンスの向こう側には黒いフードをかぶり、何やら不敵な笑みを浮かべた持田の姿がある。達海は無視を決め込むつもりでいた。東京Xとの試合以来、妙に自分に付き纏うこの青年のことを嫌っているわけではない。ただ、自分を見ているようで何となしに複雑な気持ちだったのだ。彼の足のことを知ってからは尚のこと。だが、構えば構うほど擦り寄られるだろうと思って今まであえて遠ざけるようにしていたのに、気がついたらぴったりと傍にいたりと、どうにも思うようにはいかなかった。
 チームの練習に少しは顔出した方がいいんじゃないの、言おうとして結局口に出すことはできず沈黙が流れる。どうにも、下手なことは言えない。過去の経験上、自分がそうであったように。傷つけたくはない。持田も、いずれは訪れるであろうサッカーができなくなる未来に恐怖を抱いているはずだ。無理矢理に傷口を抉るような真似をされては、今でこそおとなしい彼も何をするかわからない。
 ちょうどあの頃の自分と同じような年頃の、チームの心臓と謳われた青年に襲いかかった悲劇を、達海は理解していた。その上で哀れに、そして残念に思った。けれど同時にどうすることもできないことを知っていた。敷かれたレールの上をただひたすらに走ることしかできない、人間は無力だと。ずきり、膝が軋んだ。

「教えてくれないの?」
「知ってどうするつもりだよ」
「プレゼントあげたくてさあ」
「はあ……相変わらず唐突だね」

 金網に指をかけて握りしめ、首だけこちらを向いた達海をまっすぐに見つめてフードの奥の瞳が笑う。彼は怖くないのだろうか。いや、そんなはずはない。彼の気持ちが自分のそれとまったく同じものでないとは思うが、悔しさや行き場のない怒りは抱いているに違いない。それでも希望を絶やさずに前を向いていられるかどうか。今後の持田の命運を握るのは彼自身にかかっているのだ。そんなこと、こんな三十路をとうに過ぎた中年に言われずともよくわかっているだろうが。

「ちなみに何くれんの」
「うーん、そうだな、うちのチームの勝利とか」
「そんなんもらっても全然うれしくないけど」
「アハハハ、だよねー、そこまで達海さんバカじゃなかったねー」

 ふう、溜息を吐き出して前に向き直る。背中に持田の愉快そうな笑い声を受け、なぜだか目頭が熱くなった。俺も、こんな顔で笑っていたのだろうか。だとしたら本当におかしな話だ。泣きたいときに泣けもしないなんて、不器用にもほどがある。自分も、彼も。涙を流さないかわりに心の中で大粒の雨を降らしているのだと、達海は自嘲した。

「じゃあ俺のこともらってよ」
「えー」
「どうせ廃棄処分されるんだったらあんたのところがいい」
「……ばーか」



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title by 伽藍





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