私を穴ぼこにしたのは貴方でした | ナノ




 彼らは似ていた。けれど根本的なところで異なった存在であった。それは赤の他人同士、当然のことといえるかもしれない。現にサッカーという共通点がなければ彼らが出会うことはなかったし、互いに違うチームの選手と監督という立場でありながら、こうして逢瀬を重ねるということもなかっただろう。
 だが、いってしまえばそれだけの関係だ。彼らは惹かれあう一方で相手にさほど興味を持っていなかった。そうしていつしかそれが日常に塗り替えられ、いつの間にか互いが酸素と同じように生きていく上で必要不可欠なものになってしまったのだという事実にも気づかずに。

「達海さんはさ」

 どぼどぼ、頭の上から注がれる液体に動じることなく、達海は持田を見上げた。先ほど買ってきたばかりの彼の好物のひとつであるドクターペッパーが滝のように流れてくるのに、僅かな不快感を表情に浮かべるものの文句を言うことはしない。ただ黙ったまま相手の動向を探るよう見開かれた瞳を見つめ、衣服に染み込んでいくそれが肌に纏わりつく感覚に溜息をひとつだけ吐き出した。
 達海からしてみれば持田はまだ幼い子供だ。聞き分けがなくて我儘で自分勝手で。意味のわからないことを口にして困らせる。だが、相手が子供だろうが大人だろうが達海の態度が変わるわけではない。彼もまた子供なのだ。べとべとに汚れたジャケットをつまみ上げ、裾を少しばかり絞ってみる。茶色い液体がフローリングにぽたりぽたり、小さな水溜りをつくった。

「俺のこと可哀想だとか思ってるんでしょ、同情してるんでしょ」
「そうかもね」
「あんたの方がもっと可哀想なくせに」

 コンビニの袋から冷えたタマゴサンドを取り出し、封を開いて一口。それから残りを達海の口内へ押し込み、やれやれと心底疲れた様子で腰を下ろして、残されたそれを頬張った。ずぶ濡れの達海は突っ込まれたパンとタマゴがひとつに混ざり合っていく感覚を噛みしめながら咀嚼し、変色したワイシャツを眺めて、うちの広報にまた怒られるじゃん、ぽつりと愚痴を呟いてベッドに転がり込む。
 二人はしばらく無言で食事をしていた。呆れた持田が達海の隣へ身を投げても、状況は何も変わらなかった。狭い部屋にたちこめる何ともいえない匂いがゆっくりと包み込んでいく。

「でもどうだろう、さっきはあんなこと言ったけど」
「ん?」
「こうやってあんたに依存してる俺が可哀想なのかな」
「さあ、どうだか」

 さすがに気持ち悪いから風呂入ってくるわ、覗くんじゃねーぞ、笑いながら言い残して立ち上がり部屋を後にした達海の残り香に、くしゃり、シーツを握りしめる。気づかなければよかったのになんて、今さら。



(110426)
title by 伽藍





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