trick and treat | ナノ




 他人の家のフローリングの上でゆったりと胡座をかきながら静雄は今日の出来事を思い返していた。いつもより仕事を早く終え上司と別れた後、特に目的もなく池袋の街をぶらぶらしていたら自分が殺したがっている男の妹たちに会ったこと。しばらく他愛もない話をしていたら一緒に夕飯を食べようという流れになって彼女たちの家に招待されたこと。現在は既に食事も終えデザートを持ってくるとキッチンに向かった双子の帰りを待っているところだ。考えてみれば今まで静雄がクルリやマイルに彼女らの兄に感じるような苛立ちを覚えたことは一度もなかった。会話だって至って普通だしただひとつ折原臨也の妹だという点を除けばそこらへんの女子高生と何ら変わらない。少なくとも静雄はそう考えていた。

「静雄さーん! お待たせ!」
「遅……謝……」
「いや、むしろ俺の方こそ何もしねえで悪いな」
「いいんだよ! だって静雄さんは大切なお客さんだもん! ね、クル姉!」

 快活な妹とは正反対に姉は黙ってこくりと小さく頷いた。双子でこれだけ性格が違うのも少々異常なことではあるのだがそのあたりを静雄は気にしていない。そんなことよりもまるでこの日のためにわざわざ作られたかのような豪華にデコレーションされたケーキの方に興味があるようだ。

「すげえな。お前らこんなのも作れんのか」
「まあね、いわゆる花嫁修行ってやつだよ! いつでも幽平さんのお嫁さんになれるように……きゃっ、言っちゃった!」
「……黙」
「むぐっ! ちょ、苦しいよクル姉! 息が…」

 じゃれ合う双子を微笑ましそうに見つめる静雄の瞳は年相応の青年のそれでとても穏やかである。「食ってもいいか?」「どうぞ!」一応許可をとってからフォークを手に取り、ぶすり。そのまま口に運んでもふもふと咀嚼する姿は幼い子供のようにも見える。クルリとマイルはパッと離れてその様子をまじまじと観察した。「ねえねえ! 静雄さん超かわいいんだけど!」「……ぶっ! マ、マイル! いきなり何言い出す……」「同」「、クルリまで……」二人の言葉に頬を赤らめつつもふもふと口を動かす作業はやめない。こういうとこだけノミ蟲野郎に似やがって。ぶつぶつと呟きながらもやはり静雄はケーキを頬張っていた。

「おいしい?」
「おう」
「よかった! いやー頑張ってわざわざ静雄さんのために作った甲斐があったなー!」

 わざわざ? 自分のために? その言葉を聞き静雄は握っていたフォークをぽろりと落とした。正確にいえばそれは彼の意思とはまったく無関係な現象だったのだがあまりに突然すぎて彼自身が状況をうまく把握できなかったのだ。クリアだった視界が一気にぼやける。微笑むクルリとマイルの表情も歪に映ってみえる。なんだこれは? 静雄がようやく現状を理解したのは既に背後に回っていたクルリに羽交い締めにされ動きを封じられた後のことだった。普段ならこんな華奢な少女の一人や二人くらい簡単に摘まみ上げてしまえるのに思うように力が入らない。どういう薬仕込んだんだよ……つーか趣味悪すぎんだろ。悪態を吐く暇もなく腹の上にマイルが馬乗りになってマウントポジションをとる。彼女は相変わらず愛らしい笑顔を浮かべてはいるが今の静雄にはそれが死刑を宣告する悪魔にしか見えない。こんな質の悪い遊びどこで覚えてくるんだか。狂った双子に半ば諦めのような気持ちを抱きつつ小さく溜息をついた。

「あのねあのね! この薬手に入れるのなかなか大変だったんだよ? でも作戦は大成功! だから結果オーライなの!」
「……哀」
「おい、」
「うふふ! ダメだよ静雄さん! 私たちから逃げることなんてできないって! ふふふ! 楽しいなー! あの池袋最強の静雄さんが全然動けないなんて! 興奮しちゃうよね? すっごくそそられるよね? もう我慢なんてしなくていいよね?」

 さあ愉しい遊戯のはじまりはじまり!



(100313)





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