無自覚からはじめましょう | ナノ




 ザキさんと目が合う。でも、これは俺の勝手な思い上がりだとも思う。だから誰にも話したりなんてしない。
 少し前までは、こんなことなかった。ザキさんは俺の憧れの選手で、というより、チームで一番の若手である俺にとって、メンバー全員、もちろん監督も含めて、日々いろいろなことを教えてくれる先輩たちは尊敬に値する存在だった。その動きひとつひとつを目に焼きつけて、少しでも多くのことを学ぼうと努力する。こんな俺にはそのくらいのことしかできないけれど、ETUの一員である以上、自分の役割を全うするのが筋というものだろう。
 とはいえ、波が激しい俺は肝心なところで役に立たない。それはよくわかっていた。きっと周りからもそう思われているに違いない。期待を寄せられるのはうれしい。だけど俺はダメなやつなんだ。ちょっとしたことですぐにびびって、思うように力を発揮することができない。だからこそ、いつでも自信を持ってプレーに臨めるザキさんの姿勢を羨ましく思っていた。監督はお前らしくやればいいよといつもの軽い調子で慰めてくれたけれど、どうにも自分を変えたくて。代表選手候補にも選出されたザキさんを見習えば何かが変わると、そう思って。ずっとザキさんを見ていた。それからしばらく経ってからのことだ。俺が一方的に見ていたはずのザキさんと目が合うようになったのは。
 気のせい、じゃないんだろうか。練習中だというのに集中できない。まだ、こっち見てるのかな。逃げるように足元に向けていた視線をそっと上げる。目の前でザキさんが仁王立ちして俺のことを睨みつけていた。

「ひいっ! す、すすすすんません!」
「……なに謝ってんだよ。つーか練習中に違うこと考えてんじゃねえよ」
「ウス……」

 たいして身長は変わらないはずなのに何だか高いところから見下ろされているような気分で、俺のただでさえぐらぐらと揺れる弱い心がものすごい勢いで萎縮していく。やっぱり怒ってたんだ。怒らないはずがない。ザキさんみたいな選手だって俺みたいなのに常に見られてたら満足のいくプレーもできないだろう。
 大体俺のやってることはチームにも迷惑のかかることなんだ、今すぐやめるべきだ。せめてもっと気づかれないようにとか、邪魔にならないようにとか、ああ違う違う!なんで俺はそこまでザキさんのことを、あれ? そもそもどうしてザキさんじゃないといけないんだろう、よりにもよって、あんな怖そうな人を、俺は。

「そんなに俺にサッカー教えてほしいんならオフの日にしろ。……お前に見られてたら、なんか……調子狂う……」
「あ、っ、……はい! ほんと、すんませんでした!」
「だから! そういうのがうぜえんだよ!」

 ばしっと思いきり頭を叩かれて、痛い、でもザキさんに嫌われてなくてよかった、って、どうして俺はそんなことを考えているのか、自分でもわからなくてとりあえず少しはにかんでおいた。



(110421)





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