とある朝の風景 | ナノ




 身体が揺すぶられる感覚に意識を覚醒させる。風にそよぐカーテンの隙間から入り込む朝日の眩しさに、夜が明け、また新しい一日が始まるのだとぼんやり脳が認識した。起き抜けでまだ鈍い静雄の動きを制するよう、臨也が優しく金髪を撫で付ける。その擽ったさに目を細め、心地よさげにゆったりと身を任せる化け物に、情報屋も口元を僅かに緩ませた。

「ご飯、できてるよ」
「ん……」
「ほら、冷めないうちに早く起きて」

 口ではそういうものの、あまり強制しようとはしない。それは恐らく彼が不機嫌にならないよう、という意味の他に、本来ならば見られるはずのないこうした一面を眺めていたい、といった想いが臨也の本心であるからなのだろう。
 同棲を始めてから、二人の間にこのような甘い空気が漂うようにはなったものの、まだまだ喧嘩も絶えない日々だ。朝に弱いとはいえ、こうして隙を見せるあたり少なくとも静雄が臨也に気を許していることは間違いないのだが。布団の中で縮めていた足をもぞもぞと伸ばし、大きく欠伸をひとつ。それから甘えるように袖を掴み、黙って臨也を見上げる。

「なに、どうしたのシズちゃん」
「……言わせんな」

 赤らめた頬を膨らませ、わざと核心をついてこない意地の悪い恋人に向かってぶつぶつ悪態をつく。そんな静雄の様子に満足したのか、くすりと笑い前髪を掻き上げ、露になった額に軽く口付けが落とされた。まるで子供扱いなところに彼は不服そうだったが、柔らかい感触にとりあえずは満足し、確かめるよう小さく頷きを見せる。
 おはようのキスだなんて新婚夫婦でもあるまいし、とも思う。けれどこの瞬間に自分が確かな安心と幸せを感じていることを静雄は理解していたし、今さら恥ずかしがるような関係でもない。もちろんまったく羞恥心がないわけではなかった。臨也とはつい最近まで本気の殺し合いをしていたような仲だったし、そこまですぐに態度を変えることは正直にいって今でも難しい。だが、だからこそここは自分が素直にならなければいけないだろうと考えてもいる。今後、この生活が続いていくようなら尚のことだ。
 上体を起こし、臨也の骨張った掌に自らのそれを重ね、そっと力を込める。少し冷たい彼の体温が肌を通して伝わってきた。

「食卓までエスコートしましょうか? お姫様」
「……誰が姫だよ、バカ……」
「そのバカ王子が好きなくせに、ね」

 食欲をそそる香りに誘われるまま、寄り添った二つの影は寝室を後にした。



(110320)





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