小さな虚勢 | ナノ




 夜は嫌いだ。暗くて寂しくて怖くて泣いていた子供の頃を思い出すから。もちろん、この歳になって夜がやってくるたびに情けなく泣いたりなどはしない。
 もう脅えたりするものか。強くなるためにこの道を歩むことを決めた。守るべき対象の兄さんは僕と同じ祓魔師になってしまったけれど、そんなことは最初から関係ない。それに父さんがいなくなった今、あの人を守れるのは僕だけだ。ずっと自分にそう言い聞かせてきた。今もそうだ。弱音なんて吐いたりしない。僕は僕のやり方で兄さんを守り抜く。
 けれど、こんな雨の降る夜はなぜだろう、自然と気持ちが塞ぎ込んでしまう。そういえば父さんの葬式があった日もこんなふうに雨が降っていて、僕はその事実を簡単に受け入れられなくて、挙げ句の果てに後から兄さんを殺そうとまでして。彼が悪魔の息子だろうと何だろうと血の繋がったたった一人の兄弟であることに変わりはないのに。強くなりたくて祓魔師になったくせに、結局僕は弱いままだ。机に向かったまま俯き、深く息を吐き出す。つん、と鼻の奥が痛くなった。

「……雪男? まだ起きてんのか?」
「ッ! 兄さん……ああ、ごめん……眩しかった……?」
「いや……そういうんじゃなくてよ……」

 一度眠ったら朝まで起きてこない兄さんが夜更けに目を覚ますとは意外で、背を向けたまま気づかれないよう目尻を拭う。こんな姿を見せるわけにはいかない。さっさとベッドに入ってしまおうかと思ったが、そんな気分でもない。重く、何となく気まずい空気が全身にのしかかってくる。
 気晴らしに外の空気でも吸ってこようか、腰を上げようとした瞬間、背後から暖かい腕に包まれた。幼い頃から大好きだった兄さんの温度に、気がついたらまた目頭が熱くなって。

「お前、頑張りすぎなんだよ。たまには肩の力抜いて兄ちゃんに甘えろ。俺が許してやる」
「……馬鹿なこと言うなよ……」
「雪男がちゃんと泣いてくれるんなら、俺は馬鹿でもいい」

 顔を見られなくてよかったと、心底そう思うほどそのときの僕の表情はひどかったような気がする。ずるいよ。どうして兄さんはそうやって僕を甘やかすんだ。だからいつまでも強くなれない。兄さんを守れない。父さんと約束したのに。
 でも、それでも。今こうして兄さんに抱き締められている瞬間を僕は嬉しく思う。この腕の中で、泣き虫だったあの頃の自分に戻りたいと、そう考えてしまうのだ。雨はまだ、やみそうにない。



(110320)





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