きみはぼくのもの | ナノ
ああ、まただ。
溜め息をついた視線の向こうには、先輩たちと楽しそうに会話をするデリックの姿。後から彼らの間に割り入ってきた自分がこんなふうに憂うこと自体、あまり感心したものではないだろう。それに、僕はサイケさんや津軽さんを嫌っているわけではない。二人とも新参者の、無知な僕にいろいろとよくしてくれている。とても嬉しいしありがたいことだ。
ならばどうしてなのか。大体、思い悩むくらいならあの輪に加わればいいのではないかと思う。優しい彼らは僕を拒絶したりせず、あたたかく迎え入れてくれるはずだ。わかってはいるのに体が動こうとしない。僕は。彼らと仲良く言葉を交わしたいわけではないのだ。僕が求めているのはたった一人の愛しい姫だけなのだから。
愛馬の毛並みを整えていた手を休め、円になって会話を続ける彼に近づき、控え目に腕を引いた。振り向き、不思議そうに首を傾げるデリックを引っ張り、先輩たちに頭を下げてそのまま背を向けて歩いていく。しかし突然のことに彼も驚いたのだろう、しばらくいったところで僅かに抵抗し掴まれた手を振り払い、足が止まった。
「何だよ、急に……!」
「……すみません……」
「別に謝られたいわけじゃ……俺は理由が聞きたいだけだ」
怒られたのかと思い、がっくりと肩を落とすと、デリックは意外にも優しく、僕を諭すように声をかけてくれる。他の先輩たちだってもちろん優しいけれど、彼らとデリックとはやはり根本的に違う。
彼は、デリックは、僕の運命の相手で。探し求めてきた理想の花嫁なのであって。だからたとえ信頼のおける先輩たちとはいえ、僕の目の届かないところで言葉を交わすことをよくは思わないし、それどころか彼の行動すべてを制限してしまいたいとも考えてしまう。こんな世迷い言を彼に聞かせるわけにはいかないから胸の奥にしまっておくことしかできないけれども。
「デリックが僕以外の誰かと会って話をしているのを見ると、心臓のあたりが痛くなるんです」
「……え……」
「だから、不安にさせないでください……お願いします」
きっとこの言葉ひとつで清らかな彼は僕に縛り付けられてしまうだろう。そうするつもりはなくとも、結果的には。動揺しているのか、照れ隠しをしているのか。俯いて真っ赤に染まった顔を隠すデリックにまた愛しさが込み上げる。
誰にも見せたくない、渡したくない。そうか、この感情の名を人は嫉妬と呼ぶのかもしれない。
(110320)