伸るか反るか | ナノ




「聞いてよタッツミー。最近、バッキーとザッキー……すっかり仲良くなっちゃってさ。王子のボクを差し置いてね。それで、そう……何だかおもしろくないんだよ。別に嫉妬とかそんな醜い感情じゃないんだ。たださ、少し寂しいっていうか……雛が巣立ったあとの親鳥の気分? っていっても君にはわからないだろうけどね、ボクの気持ちなんて」

 古いテレビの画面に映る他チームの試合映像を睨みつけたまま微動だにしない達海に向かい、ジーノはべらべらと独り言にしては随分大きな声で喋りつづけている。二人の間に会話は成立していない。先ほどからジーノが他愛もない世間話、もとい愚痴のようなものを一方的に捲くし立てるだけで、話しかけられている相手の方はまるで一度も反応を示していないのだ。それをまったく気にしていないのか、それとも気づいていないのか。部屋の主に断りもなく堂々と狭いベッドに腰を下ろし、我が物顔で口を動かしつづけるその風貌は、さすが王子と呼ばれるだけのことはあった。

「何かあったのかな……ねえ、どう思う? だってこんな短期間で、もともとそこまで会話もなかった二人がだよ、絶対何かあったんだろうとボクは考えてるんだけど。……行動を起こすとしたらザッキーだよなあ……バッキーみたいな子には興味ないと思ったのに、人間いつ変わるかわからないからね……うん、でもやっぱり、寂しいな」

 言葉に出すことによって仕舞いこんでいた感情の蓋が開いてしまったのだろう、ジーノは拗ねた子供のように頬を膨らませ、眉を寄せてどこか落ち着かない様子でいた。達海はそんな彼の様子にも気づくことなく、テレビの映像に集中して目を凝らし、耳を研ぎ澄ませている。ここまで不平不満を口にしているというのに、こうも相手にされないとは。我儘育ちの王子はどうにも腑に落ちないらしい。つい最近までは彼の優秀な犬たちが遊び相手になってくれていたのだが、今やそれは過去の話だ。その隙間を埋める別の存在が必要不可欠であった。とはいえ、チームの他のメンバーたちはまた何か違う。結局辿り着いたところが若き新監督の達海であったのだが、どうやら彼も外れだったらしい。
 自然と零れる溜息に首を振り、しかしそこでふと閃いて、ジーノは達海の背後にそっと近寄ると首に腕を回した。さながら猫が飼い主に甘えるような仕草で。実際はそのような可愛らしさは皆無であったが。さて、どのような反応を見せるだろう。期待に満ちた瞳を輝かせそのまま相手の動向を探るが、相変わらず達海はびくともしない。どこか変わった男だとは思っていたが、まさかここまでとは。さすがのジーノも呆れ果て、摺り寄せた体を離そうとしたところで、ぽつり。

「なに、かまってほしかったの?」
「……! 遅いよ!」
「言わなきゃ伝わんないこともあんだよ、覚えとけ」
「じゃあ、ボクにかまってくれるの、タッツミー」
「……さあね、その気にさせてみれば」

 不適に微笑む王の勝ち誇った表情に負けるわけにはいかないと、王子の腕に力が籠る。さて、先に折れるのは彼か、それとも。



(110419)





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