得る快感 | ナノ




 あ、と気がついたときには既に手が出ていた。奴の華奢な身体はおもしろいように吹っ飛んで壁に激突し脆く崩れ落ちる。殴った。俺はただ臨也の野郎を力任せにぶん殴った。なぜ?殴れと言われたから。数分前、俺の家に土足で踏み込んできた奴は口元を歪めて突然「俺を殴ってよ」と言った。唐突なことでうまく考えが纏まらなかったがとりあえず言われたとおりに殴ってやった。それだけのことだ。「気持ちよかった?」臨也は問う。わからない。気持ちいい? 俺はこいつを殺したいと思っているがこんな一方的にも程がある殴り合いのどこが気持ちいいのだろうか。無言で睨みつける俺に対して臨也は頭から血を流しながらも楽しそうに笑っている。

「俺は気持ちよかったなあ。シズちゃんに殴られた瞬間。つい興奮しちゃった」
「は?」
「ねえ、もっと」

 僅かに頬を紅潮させてまっすぐにこちらを見つめてくる臨也に苛立った。だから俺はまた殴る。「こっち見んな、」別にこいつの思いどおりに動いてるわけじゃない。腸が煮えくり返りそうなくらいムカついてるから殴ってんだ。「笑うんじゃねえ!」腕、足、腹、顔、あらゆる場所をとにかく殴った。骨が折れたような音が途中で何度か聞こえたが無視した。そうして気の済むまで俺は臨也を殴った。どれくらい続けていただろうか。さすがに疲れてきて腕を下ろしぴくりとも動かない奴に目を向ける。死んだのか? それならいい。もう俺がこいつに対して腹を立てることもなくなるから。ああ幽に貰った服に汚ねえ血が染みついちまった。これは捨てるしかないだろうな「、ふふ」どこからか笑い声が聞こえる。幻聴かと思えばその声は確かに血塗れの臨也から紡がれていた。そして俺の背筋は凍りつく。

「あはあ、シズちゃん……俺が死なないように手加減してくれてたの? 優しいんだね」
「なん、なんだよ」
「あーきもちいい……シズちゃんのこと考えながらオナニーするよりよっぽどきもちいいや、」

 ありえないことに臨也は俺に殴られている最中に数回に渡って精液をぶち撒けていたらしい。染み込んだそれがすべてを物語っていた。きもちわるい。「………っう、え」胃の中は空だったから出るものも何もなかったがそれでも吐かずにはいられなかった。眼球にはまだあの顔が焼きついて離れない。きもちわるいきもちわるい。「あ……、は……」意味がわからない。理解できない。思考が追いつかない。おかしいのは俺なのか? それすらわからない。「シズちゃあん」ゆっくりとした動きで臨也の指が吐瀉物を掬い、口に運ぶ。ああきもちわるい。くるしい。きもちわるい。「なぐって」きもちわるい。きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい!

「ほら、はやく」



(100311)





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -