沈める | ナノ




 シズちゃんをどうにかして殺したかった。刺されても撃たれても平気な顔をしているシズちゃんを。俺は考えた。傷つけて殺すことができないのなら、他に手段を探さなければ。そのためにまず、シズちゃんの動きを止める筋弛緩剤を用意した。もちろん、ふつうでは手に入らないくらいの強力なものだ。話に聞いたところではゾウなどの大きな動物に使用するものらしい。これがあの化け物に効くかどうかはわからないが、まぁいいだろう。それから、自衛用の改造スタンガン。シズちゃんが気絶するとは思えないけれど、一瞬でも動きを止めることができればそれでいい。そうしてシズちゃんを殺すための準備を整えた俺は、彼の仕事が終わるのを見計らってアパートに乗り込み、背後から手に持ったスタンガンを押しつけた。案の定ほとんど効き目はなかったようだが、隙をついて、筋弛緩剤の入った極太の注射器を腕に突き立てることに成功する。薬は即効性のものだったため、さすがのシズちゃんも立っていることができなくなり、がくりと膝を折った。なんだ、案外うまくいってしまうかもしれない。それはそれでつまらないけど、仕方ないか。ぶつぶつ言いながらぐったりとしたシズちゃんの身体を引きずり、狭い浴室に押し込む。シャワーからすごい勢いで水を出し、浴槽がいっぱいになるまで溜めた。その間もやはりシズちゃんは動けず苦しそうに息を洩らすだけだった。水を溜め終えると、俺はシズちゃんの腕を強く引いて浴槽に近づけ、そのまま髪の毛を鷲掴んでその中に頭を沈めてやった。もちろん抵抗はされた。しかしそれは普段の彼からは想像もつかないほど弱いもので、俺も何だか興醒めしてしまったけれど、掴んだ後頭部を離すことはしなかった。ぶくぶくと泡が浮かんでくる。水中でシズちゃんがもがいている。死ぬかな。ぼんやりと遠くの方で考えた。シズちゃんが死んだら。池袋は平和になるし、俺も安心して毎日を過ごすことができるようになる。そうだ。シズちゃんは俺のために死ぬんだ。それはなんてうれしいことなんだろう。シズちゃんが大嫌いな俺のために死ぬ。俺は幸せだ。がばがばごぼごぼ。何か喋っているのかもしれないがよく聞こえない。しばらくうるさくばちゃばちゃと暴れていたシズちゃんだったけれど、だんだんとおとなしく、静かになっていく。シズちゃんの髪を掴んだ俺の手も水の中で、寒くなってきた。もうあれから何分経ったのかわからないけど、まだ生きてる。やっぱり君は化け物だよ。早く死んでよ。そう思いながら手に力を込め、さらに深く沈める。ごぼり。最後に大きな泡が浮かんで消え、シズちゃんは動くのをやめた。死んじゃったのシズちゃん。随分あっけないね。君ならもっと俺を楽しませてくれると思ったのに。期待はずれだよ。ぐい、重い頭を引き上げる。青白い肌、紫色の唇。本当に死んだのか。どうしてだろう、俺が望んでいたことのはずなのに、何だかなぁ。ぴくりとも動かない冷たい頬を撫で、唇に噛みつく。適当に酸素を送ってやると、ごほごほ、激しく咽返した。確かに俺はシズちゃんを殺したくてこんなことをしたんだけど、どうせならシズちゃんには大嫌いな俺の腹の上で死んでほしいなぁ、なんて。今思いついたんだけど、どう?一応、君の意見も聞いておいてあげるよ。そのまま熱を取り戻したそこにもう一度口付けを。



(110209)





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