独占してあげる | ナノ




#9話捏造



 らしくもないと思った。あんな高校生のガキ相手に油断するだなんて。一体どんなやり取りをしてそうなったのか詳しいことは聞いていない。というか聞いても話してくれない。何を言っても「手前には関係ねえだろ」の一点張り。関係なくはないと思うんだけどなあ。
 でもまあシズちゃんのそういう顔は好きかな。多分だけどさ、俺にしか見せないんだと思うんだよね。あらゆる負の感情を混ぜ合わせたような色をしてるその目。とても綺麗。シズちゃんは化け物なのに俺の求める人間像に一番近いんだ。それってなんだかずるいよね。
 今日だって偶然なんだろうけど結果的にセルティを助けたらしいじゃないか。だからあんな目に遭ったんでしょ? 正義のヒーロー気取りか知らないけど化け物のシズちゃんには似合わないよ。それで傷なんてつくって何がしたいわけ? 俺が強欲だって知らないわけじゃないだろうに。いつもそう。

「聞いてんのかよ」
「聞いてるよ」
「だったら離れろ」
「だめ。まだ消毒中」
「……あほか」

 大体おかしい。ナイフだってほんの少ししか刺さらなかったのになんでボールペンなんか。意味わかんないしムカつく。だけど事実だってのがまたどうしようもなく腹立つ。埋まっているそれを引き抜いたら痛覚が麻痺してるシズちゃんでも血はたくさん出た。流れていかないように丁寧に舌を這わせていくとびくっと身体が震える。今どんな顔して堪えてんのかな。弱々しく眉を寄せて長い睫毛を伏せて唇から甘い吐息を洩らしてるのかな。想像して思わず笑いそうになる。そうだよ。シズちゃんを怒らせるのも弱らせるのも泣かせるのも俺だけでいい。これからもずうーっと。

「お前、やっぱ頭おかしい。気持ち悪い。変態。最悪」
「知ってる。はい、次は手出してね」
「ふざけんな」
「ねえ、消毒終わったらセックスしたい」
「死ねよノミ蟲」
「じゃあシズちゃんをオカズにしてオナニーするからいいや」
「帰れ」

 ぽっかりと穴のあいた掌。この傷がいずれ塞がって消えたとしても俺の記憶が色褪せることはきっとない。だって覚えてるよ。はじめてシズちゃんに傷をつけたあの日から。これはあのときの。こっちはこの前の。俺とシズちゃんだけの思い出が他人に汚されるのは気に入らない。人間を愛してる俺でも許せないことくらいあるってこと。だからもう二度と俺以外に隙なんて見せたりしないで。俺以外に傷つけられたりしないで。変になっちゃいそうなんだ。シズちゃんは俺のもの。俺だけのもの。

「ん、」
「あのさ」
「……っ、あ?」
「やっぱりしたい」
「……一応聞いてやる。何をしたいって?」
「セックス」
「いやだ」
「じゃあ犯すよ」
「うぜえ」
「今どうしてもシズちゃんとしたいんだけどなー。セックス」
「そんな何回も言うんじゃねえよ。ばか」
「だったらやらせてよ」
「……あとで殺すからな」
「うん」

 おそらくシズちゃんは気づいていないだろう。俺の気持ちが偽りのものではないということに。でもそれでいい。教えてなんかあげない。この気持ちでさえ俺ひとりだけのものであって、たとえシズちゃんだろうが誰にも渡すつもりはないんだから。傷口から溢れる赤くて甘ったるい血を最後の一滴まで残すことなくぺろりと舐めあげ俺は満足げに笑みを浮かべた。



(100308)





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