禁じられない遊び | ナノ




#教師×生徒



「シーズーちゃん」

 放課後、すっかり日も暮れた教室で、一人、帰り支度をしていた俺の背に、ふと心地よい甘さを含んだ声がかかる。振り返れば、黒いスーツにぴしっと身を包み、銀縁の眼鏡をかけた、品のよさそうな男の姿がそこにあった。
 折原臨也。俺のクラスの担任で、去年赴任してきたばかりの若い教師だ。その容姿や性格から、特に女子の人気が高く、授業中だけでなく休み時間までも注目の的である。担当科目は俺の苦手な英語。人生の半分以上を海外で過ごしていた、いわゆる帰国子女であり、日本人とは思えないほど流暢に外国語を話す。その他、ドイツ語やフランス語、ロシア語なんてものまで喋れるらしい。
 彼のような完璧な教師と、俺のような落ちこぼれの生徒、どう考えても深く関わり合うことなんてない、そう決め込んでいたのだが。

「……学校で、その呼び方はやめてください」
「ああ、ごめんね。でも待ちきれなくて。……シズちゃん、名前、呼んで」
「……っ、……い、ざや……」

 恐る恐る、彼の名を口にする。瞬間、ぐい、と腕を引かれ、強く抱きしめられた。授業も終わり、ほとんどの生徒は下校したはずであったが、学校という公共の場において、仮にも教師と生徒が、こんな。どうしようもない背徳感に襲われている一方で、心臓が激しく高鳴る。今、この瞬間だけは、俺が臨也をひとりじめできるんだ。なんて、ひどく傲慢な考えだけれど。
 ふと我に返り、離れようと身を捩るもしっかりと後ろに腕を回され動けない。俺より少し背丈の低い臨也をやや控えめに見つめると、くす、意地悪な瞳が嗤った。

「寂しかった?」
「……そんな、こと……」
「嘘。ちゃんと俺の目、見てよ」

 まっすぐに俺だけを見据える臨也の視線が痛い。手が震える。どきどきする。クラスの女子が、臨也の名前を口にして黄色い悲鳴を上げるだけで。本当は嫉妬している。そんな自分に嫌気が差すことだってある。
 許されない、叶わない感情だということは十分把握しているのに、それでも。臨也を思うと胸が疼いて、身体が熱を帯びるのがわかる。寂しくないはずがない。いつだって俺は臨也を求めているんだから。それを知っているくせにわざわざ聞いてくる、ずるい大人。

「アハハ……シズちゃんって、かわいくてついついいじめたくなっちゃうよね」
「かっ! かわいく、ない……」
「かわいいよ? そうやっていろいろ悩んで、でもやっぱり俺のことが好きで好きでしょうがないところとか。……俺も好き。どうにかしたくなっちゃう……」

 す、頬に冷たい掌が触れ、びくりとした。いつの間にか距離が縮まり、あっ、声に出す間もなく容易に唇を奪われる。触れては離れ、ちゅうちゅうと赤子のように啄ばまれ、くすぐったさに思わず笑えば、生温い舌が割って入ってくる。
 正直、キスの経験なんてなかった。誰かと付き合ったこともないし、恋をしたこともなかった。当然、身体だって繋げたこともない。俺のはじめては、すべて臨也に奪われてしまった。今でも覚えている。あれは、そう、一目惚れだったのかもしれない。絶対に気づかれてはいけない思いを心の中にしまいこんで、封印しようとしたのに、暴かれて、今では俺の心も身体も、彼のもの。
 激しさを増すキスにくらくらと眩暈がしてうまく立っていられない。倒れそうになる俺を支えながら、臨也はだんだんと壁へ追いやっていく。そうしてぴったりと背中が無機質な温度を感じ取り、今度こそ逃げ場がなくなった。

「ん、んっ……ふ、ぁ……!」
「……シズちゃん、」
「……? な、に……」
「……、したくなってきた」
「は……っ!? だ、だめ……こんなとこで、無理に決まって……」
「……いいよね、……今日は特別な日だもん」

 油断したと同時に、シャツの隙間から臨也の手が滑り込んでくる。ひんやりと冷たいそれに思わず身を強張らせ、無意識に甘い声が漏れるのを押さえようとするも、いとも簡単に阻止されてしまった。耳元で静かに囁く、テノール。自惚れかもしれない、でも。
 俺は抵抗をやめ、熱い息を吐き出しながらぼんやりと目の前の彼に視線を合わせた。もうどうでもいい、臨也が、ほしい。

「お誕生日おめでとう、シズちゃん」



(110128)
静雄ハッピーバースデー!





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