視線 | ナノ




#デリ←津前提



 最近、津軽の様子がおかしい。いや、何がおかしいのかというと俺にも説明はつかないのだが。具体的にいうと、いつも浮かべている柔らかな笑顔が、ときに冷たく凍りつく、といった感じだろうか。
 一体何に対してそんなにも嫌悪を顕にしているんだ、気になった俺はその視線を追い、気づいた。新しく居候として俺と津軽が住んでいる家にやってきた、まるで童話の中から現れた王子様のように美しい身なりをした高貴な青年、日々也。あいつを見ているときの津軽が全身から憎しみを具現化させたようなオーラを漂わせていることに。俺にはそれが不気味で、軽い恐怖すら抱くほどであった。
 どうしてあんな顔を。今まで二人で暮らしていた頃は一度も見せたことなんてなかったのに。洗濯物を畳みながらぼうっと考えていた俺だったが、ふと肩を叩かれてハッと我に返った。

「どうしたんですか、難しい顔をして」
「……何でもねぇよ。お前は気にすんな」
「……デリくんは、いつもそう言いますよね」

 ふう、溜め息をついて日々也が俺と向かい合わせになるようにフローリングに座り込む。見つめる瞳は純粋で、目を合わせるのがいたたまれなくなり自然な流れで逸らした。止めていた手を再び動かし、くしゃくしゃになったタオルを拾って丁寧に折っていく。日々也の顔はよく見えないが、どこか寂しそうな雰囲気を醸し出しているように思えた。

「気にしたら、だめですか」
「……そういうわけじゃねぇけど……余計な心配かけたくないから」
「僕だって心配したい」

 ぎゅっと日々也の暖かい掌が俺の手を包み込む。驚いてそちらに顔を向けると、日々也は不服そうに唇を尖らせていた。普段、何を言われても文句など口にしない日々也が。はじめてだった。真剣な表情で包んでいた手を解放すると、そのまま頬を両側から挟む。心臓が、どくん、高鳴った。

「デリくんのことが、好きです」
「えっ……」
「だからもっと、もっと君を知りたい。君に近づきたい。それはいけないことですか?」

 何も言葉を返せなかった。いや、正確には言葉を返す暇を与えられなかったというべきか。気がついたときには日々也の顔が鼻の頭が触れ合うほどの距離まで接近していて、唇と唇が。
 数秒経って、ようやく今何をされたのか理解した。思わず肩を押して離れる。慌てる俺とは正反対に、日々也はひどく落ち着いた様子でこちらを見つめ、僅かに微笑んだ。その表情に俺の胸はまた早鐘を打つ。

「なん、で……」
「突然すみません。ああでもしないと信じてもらえないかと思って……もしかして、はじめて?」
「ち、ちがっ!」

 どこか残念そうに、それでいていたずらっぽく日々也はくすくすと笑った。まるでからかわれているみたいだ。ぐ、と言葉に詰まって行き場をなくした視線を宙にさまよわせる。身体が、熱い。固まって膝に置いたままの手をふわりとやさしく包み込まれ、目眩がした。
 直視できなくてそわそわと落ち着きなく周囲に目を向けると、見慣れた着物姿を発見し、そして。ああ、またあの顔だ。

「……日々也……デリと、ずいぶん仲良さそうだな?」



(110102)





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