トラジェディー | ナノ




#魔法少女まどか☆マギカパロ



 臨也を恨んでいない、といえば嘘になる。実際あいつは俺たちに大切なことを隠していたにもかかわらず、それを悪いとも思っていないようだし。デリックがあんなことになってしまったのも責任をなすりつけるようではあるが臨也が元凶だと、俺は考えている。
 だから別に心を許したわけではない。こうして契約しようと決意したのも臨也のためではない。もうこれ以上、デリックだけにつらい思いをさせたくなかったから。たとえ偽善だと罵られても構わない。俺は俺のやり方であいつを助けたい、それだけだ。でも。もしかしたら今俺は、後悔しているのかもしれない。

「気持ちいい?」
「ぁ、ふ、……あっ、う、……!」
「いいんだよ、無理して声抑えなくても」

 契約という名の儀式は想像していたものとまるで異なっていた。ベッドに肢体を縫いつけられ、上から黒い影が覆いかぶさってくる。それだけで俺の中に感じたことのない恐怖が植えつけられたというのに。身に着けていた衣服はすべて剥ぎ取られ、生まれたままの姿になった俺の肌を熱い舌が辿り、冷たい指がなぞっていく。
 怖い。純粋にそう思った。デリックも臨也とこんなことをしたのだろうか。それであんな平気な顔をして俺に接していたなんて、そんな、とてもじゃないけど俺は。ふと上の空になっていた脳内は臨也に耳朶を食まれたことで現実へと引き戻される。ぞくぞく、肌が粟立つ。

「やっぱり俺の見込んだとおりだ。君は近年稀にみる逸材だよ」
「ひ、……やぁ……」
「嫌? 身体はこんなにも正直なのに……でも残念。もう止められない」

 ぐちゅ。耳にしたことのない卑猥な水音が密室に響いて俺は戦慄した。無理だ。そんなところに、ああ。僅かな抵抗もむなしくずぷずぷと飲み込まれていく指。臨也がにやりと愉しそうに笑った。
 最初から、最初からこうするつもりだったのか。俺の親友を罠に陥れて、俺が苦しみもがくさまを内心笑いながら見ていたのか。せめて睨もうとするも内部で腸壁を抉る爪の動きにびくびく身体が跳ね上がるだけだ。
 こんな、ことになるなら。津軽のいうことを聞いていればよかった。そうすれば俺もデリックも。

「お、ねがっ……やだ、むり……ぃ……」
「ダメだよ、シズちゃん。後悔はしないって決めたんだろ? 一度決めたことをなかったことにしたいだなんてそんなの虫がよすぎる。でも俺は君がそんな卑怯な子じゃないって知ってるよ。誰よりもまっすぐなシズちゃんが好きだからね」

 ぼうっとする頭の中で臨也の囁きが反響する。そうだ。後悔なんてあるわけない。自分のための願いじゃなくたっていいんだ。これは俺が考えに考えて決めたことなのだから。今さら過去を振り返ることはしない。
 散々ほぐされて柔らかくなったそれに満足したのか、臨也の細い指が引き抜かれる。そうして先ほどより比べものにならないほど質量の大きい、熱く肥大した塊が入り口に宛がわれ、怖くないわけがなかった。少しずつ、少しずつ。身体だけでなく心まで蝕むかのように。臨也は俺の中へ侵食してくる。

「や、いたっ……いた、い……」
「直にその痛みすら感じなくなるさ。君はもう人間でなくなってしまったんだからね」
「……、ちが…おれ、はっ……ひぁあっ!」
「無駄口を叩く暇があったら、もっと悦がって俺に縋りついてよ」

 何度も腰を打ちつけられた。それはひどく、まるで全身に臨也の存在を刻み込まれるように。俺は犯された。ぼんやりとした視界の中はっきりとわかったのは、臨也が悪魔のような形相で興奮を抑えきれずに笑っていたということだけ。その裏に何が隠されているのか俺には知る術もない。ただ、今となっては過去の自分を振り返る行為ですら意味のないものとなってしまった。奥の方に熱いものが注ぎ込まれるのを感じ息が止まる。どうしようもなく涙が溢れた。俺は、俺は。取り返しのつかないことをしてしまった。

「契約、しちゃったねえ。シズちゃん」

 唇から放たれた臨也の感情のこもらない嫌な笑いがいつまでも脳内に木霊す。今さらあのときの先輩の言葉が思い出されるだなんて。やっぱり俺のしたことは間違っていたのかもしれない。



(110218)





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