王子様とお姫様 | ナノ




 おとぎ話の中の王子様は、かっこよくて、頭がよくて、強くて、やさしくて、可哀想なお姫様を誰よりも幸せにしてくれる。でも王子様っつーのが実際にいたとして、本当にいい人ばっかりかって言ったら違うだろ。外面だけよくて中身はただの極悪人かもしれない。ああいう話はな、子供に夢を見せてやるために誇張して書いてあるんだよ。だから真に受けるなんてバカのすることだ。
 昔、津軽に絵本を読み聞かせてやったあとこんな話をしたら、盛大に泣かれた記憶がある。今でも俺の中の王子とか姫とか、絶対的な存在に対して抱くイメージは、あの頃とそう変わらないと思う。
 なぜか。俺はたぶん、嫉妬していたんだ。

「おはようございます」
「……ん……おはよ……」

 それがどうしてこんなやつと一緒に暮らすことになっているんだか。これならまだサイケと津軽のお守りをしてた方が楽だったんじゃないか。つーか王子って何だよ王子って。
 思うことはたくさんある。朝起きてから夜寝るまで俺は日々也の世話しかしてないし、それだって別に好きでやってるわけじゃねえけど。なんだろうな。この生活にも慣れちまって、今じゃそうやって四六時中世話焼いてないと気が済まないくらいなんだよ。

「ほら、飯作ってやったぞ」
「これは何ですか?」
「野菜炒め」
「やさいいため……」

 本当に世間知らずなのか、実はサイケみたいに猫をかぶっているのか。そんなことすら俺にはもうどうでもよくなっていた。なんだかんだで俺、他人の面倒を見るのが好きなんだろうな。口じゃ絶対言わないけど内心じゃ満更でもない、かもしれない。それはまだ俺がこいつのことをあまりよく知らないから? どっちにしろ深く考えるのは嫌いだ。
 箸で適当につまんだ野菜を日々也の口へ運ぶと、首を傾げながらもおとなしく咀嚼し、やがて、おいしいです、笑う。やっぱりガキだなあ。そりゃあよかった、僅かに視線を逸らした俺の顎はぐっと掴まれ。

「デリくんにもお裾分けしてあげますね」

 前言撤回、油断大敵、だ。



(101221)





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