ほんとはね | ナノ




 この湧き上がる、胸を苦しめる感情はなんだろう。ふと考えて、それから、自分の下で必死に息を殺し、射殺すような眼で睨んでくる静雄に視線を向け、臨也はぞくぞくと心地よさそうに身体を震わせた。
 殺す、殺す、低く唸る彼の頬はしかし紅潮しているのだから馬鹿げている。何が池袋最強だ。どうってことないじゃないか。だってこんなにも憎くて仕方のない男に簡単に騙され、足を開くくらいだ。どうせ過去にも同じようなことがあったに決まっている。
 ふん、と鼻で笑い、一気に顔を近づけると、臨也はにっこり、それでいて悪意の篭った笑顔で囁いた。

「シズちゃんさあ、もしかして気持ちいいとか思っちゃってるんじゃないの? 大嫌いな俺にこんなことされてそれで感じてるなんて、はっきり言って頭おかしいし気持ち悪いよ。まあそんな気持ち悪いシズちゃん相手に勃つ俺も相当気持ち悪いかもしれないけどね。そう考えてみたら俺たちってほんとは結構相性いいんじゃないかな? ねえどう思うシズちゃん、ねえねえ!」

 ずぷり。後孔に走る感じたことのない痛みと違和感に、静雄の口から小さく悲鳴が上がる。優越感に浸りながらそれを見下ろす臨也は、首筋から耳にかけてのラインに舌を這わせ、満足そうに微笑んだ。
 あの静雄が歯を食い縛って快感に耐え、涙を流している。それだけで臨也には十分だった。本当のことを言えばここまでするつもりはなかった。いつも振り回されてばかりの自分に嫌気が差して、どうにかして彼に嫌がらせをしてやろうと、それで。
 最初はちょっとした好奇心だった。もともと臨也は男に興味などなかったし、ましてや相手は静雄だ。下手なことをすれば自分が被害に遭うこともわかっていたから、適当に薬を盛って、適当に弄って、苦しんでいるところを適当に放置して、そのあたりをうろついている適当な男たちに任せて逃げようと、そう考えていたはずだったのに。
 静雄の滑らかな肌に触れ、誘うような甘美な声を聞き、憎しみの篭った、だが抗うことのできない快楽に戸惑う瞳を目の当たりにし、臨也は魅せられてしまった。今だってそうだ。勝手に洩れる嬌声を呑み込み、疼く身体を落ち着かせるように大きく深呼吸を繰り返し。普段から自分が知っている静雄ではない。纏う魔性の色気が、臨也の理性を呆気なく奪っていく。

「シズちゃん、」
「ふあ、あっ……やだ、やめろ……っ」
「……っ、……そんなの、ずるい」

 先ほどまでの威勢と余裕はどこへやら、目の前の静雄の痴態に臨也はもはやどうしていいかすらわからなくなっていた。胸が痛い、苦しい。彼の嫌がる、その表情が見たくてこんな愚かなことをしたというのに。罪悪感?何に対する?自分の思考に追いつくことができない。こんなことは初めてだった。いつだって静雄を忌み嫌い、彼を傷つけ痛めつけるためには、どんなことでもしてきたはずが、今こうして実際に彼の涙を前にした瞬間、何もわからなくなった。
 ぽろり、頬を伝う水滴を無意識に指で拭い、舐める。仄かに塩の味がした。

「痛い?」
「っ、う、……ひ、いた……いたいっ……」
「……ごめ……っ」
「あっ、あ……! いざ、やぁ……」

 名前を呼ばれ、腰を押し進めようとした臨也の動きが止まる。静雄はぐすぐすと鼻をすすりながら首に手を回し、それから少し悲しそうに笑った。どうしてシズちゃんがそんな顔、するの。込み上げる感情に、臨也は衝動的に彼の唇に噛みついた。
 激しく求められて不安そうにぎゅうとしがみついてくる静雄をしっかりと抱きしめ、口内を貪る舌の動きは止めない。苦しがって逃れようとするそれを離すまいと引き寄せ、無我夢中で歯列をなぞり、舌を食む。そうして自分の余裕のなさを嘲笑うように、そっと銀糸を伝わせながら漸く解放し、最後にもう一度そこへ口づけた。

「……シズちゃん」
「……なん、だよ」
「ごめん、大好き」
「……知ってた」
「……なにそれ、シズちゃんのくせに、……やっぱりずるい」
「んっ、! バカ、てめ……急に、動く、なっ」

 自分の声に驚いて慌てて口を塞ぐ静雄の掌をやさしく払い、臨也は穏やかに微笑む。すべて納得がいったようなその表情に抵抗するのをやめ、照れくさそうに睫毛を伏せる仕草が愛しくて、そっと頬を包み込んだ。

「声、聞かせて」



(101018)





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