やわらかな檻 | ナノ




 俺が四木さんに飼われるようになってかれこれ一週間が過ぎた。といっても今日が何月何日の何曜日なのか、俺にはわからない。カレンダーも、時計すらもこの部屋にはない。あるのは冷たい壁と、俺の四肢の自由を奪う鎖、それにペットの証である首輪だけ。それ以外には何もない。
 最初のうちはこの生活が苦痛で、俺も途中で何度も脱走を試みた。けれどそれが許されることはなく、お仕置きという名の拷問が繰り返されるそのうちに諦めもついて。今ではすっかりあの人の飼い犬に成り下がってしまった自分がいる。
 今頃トムさんはどうしているだろう。幽は。臨也は。唯一の連絡手段だった携帯も目の前で壊されてしまったことだし、俺の行方を知る人間なんて誰もいやしない。ノミ蟲もここまでは手が出せないはずだ。……だけど寂しくはない。俺には四木さんがいる。行き場を失くした俺に存在意義を与えてくれた、四木さんが。

「静雄」
「四木……さん、?」
「今帰った。いい子にしてたか?」

 鉄製の重い扉が軋んだ音を立てて開き、白いスーツに身を包んだ俺の飼い主が顔を出した。ひどく気だるげな雰囲気を纏った彼はどこか大人の色気を帯びていて、俺も自分の身体が芯から疼くのをひしひしと感じた。媚薬を飲まされたようにカッと熱をもつ素直な肢体。これも四木さんに隅々まで調教された結果の末である。
 言葉を発せずとも、訴えかけるように見上げれば激しく唇を貪られた。動かない四肢が憎らしくがちゃがちゃと鎖を揺らしながらも、必死に舌を絡めてキスに応える。四木さんに触れられている。その事実を噛み締めるたびに頭がふわふわとして、何も考えられなくなる。理性などとっくに吹き飛んでしまっていた。

「もうこんなにおっ勃てて……本当にはしたない犬だな」
「ひあっ……ご、ごめんなさい……」
「腰まで揺らしやがって……これは躾が必要、か」

 躾、と聞いて途端に身体を強張らせた俺を見下し、四木さんは意味深な笑みを浮かべる。また叩かれるのか、ぎゅっと目を瞑ればやさしい掌が俺の頭をふわりと撫でた。恐る恐る見つめると、いつもの俺が好きな四木さんがいる。ああよかった、思い違いだったのか、そう安心したのも束の間。彼の足が俺の勃起した性器に向かって振り下ろされた。

「あああっ! あ、やぁ、いたっ……いたい……!」
「当たり前だ。気持ちよくなったらお仕置きになんねぇからな?」

 抵抗できないのをいいことに、四木さんの上品な革靴が俺の汚いペニスをぐりぐりと踏みにじる。爪先に力を込めているためか、ずしりと体重がかかり、それが大きな負担となって。痛い。痛い痛い痛い。それでも逆らったらもっとひどいことをされるとわかっていたから、俺は歯を食い縛ってひたすら痛みに耐える。大丈夫だ、これが終わればご褒美がもらえる、そう自分に言い聞かせて、

「おい、静雄」
「ふ、っう……なん、れすかぁ……」
「なにだらしなく涎垂らしてんだ? ああ?」

 驚いて視線を向ければ、萎えるどころか先走りを滴らせ悦んでいる己のいやらしい性器がそこにあった。そんな。痛くされて感じているなんて、俺は。何も言い返せなくて、息を荒げ、ただ開いた口から喘ぎ声を洩らし、ちがう、ちがう、と首を左右に振る。四木さんは苛立たしげに舌打ちし、より強く、潰すかのような勢いで俺の剥き出しのペニスを踏み続けた。痛い、けれど確かに、気持ちいい。だめだ、もう。限界だ。

「ひああっ! ん、ア、っ……ああ……! ……ふぇ……」
「……汚れちまったな」

 真っ黒な靴に濁った精液をぶちまけ、恥も捨ててその場に泣き崩れた。いくら教え込まれてそういう身体になったからといって、こんな、こんな。痛めつけられて呆気なく達してしまうだなんて。いやらしい。汚い。軽蔑される。捨てられる。嫌だ。四木さんに見捨てられたら俺は、俺は。さまざまな想いが脳内を駆け巡り、ぐちゃぐちゃになって情けなく涙を溢すことしかできない俺に、容赦なく四木さんの足が突き出される。

「ご主人様の靴を汚したんだ……自分で綺麗にできるな?」
「……は、い……っ……」
「犬みたいに床に這いつくばって舐めろ。ちゃんとできたらご褒美、だ」

 氷のように冷たい床に生まれたままの身体を這わせ、ぺろぺろぴちゃぴちゃと汚れた部分を舐め回す。自分の精液など好きで舐めたくはなかったが、他でもないご主人様の命令だ。逆らうことは許されない。こく、と何度か喉を上下させ、ゆっくりと嚥下させていく。こんなことを強要されてもなお、俺は四木さんに惹かれているのだ。もう後戻りできないところまで。

「静雄……偉いな」
「ん、四木さ……っ……」
「約束どおりかわいがってやろう。お前の気の済むまで」
「お、ねがい、します……」

 つまりはこの箱庭から抜け出すことなど、到底不可能。



(100805)





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