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#臨←静前提



 ひとりはさびしい。まだ温もりの残るシーツを握りしめ、静雄はふうと短く息を洩らす。肌に纏わりつく汗が昨夜の行為をまざまざと思い出させるようで、なんとなく物悲しい。ベッド脇のサイドテーブルには、彼を気遣うようなうわべだけのやさしい言葉が並んだメモがそっと置かれていたが、静雄は何の躊躇いもなくそれをくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に放り投げた。
 どうしてなのだろう。どうして自分はあんな男のことが好きなのだろう。身体だけの関係などそう長くは続かない。それでも、身体さえ繋がっていればきっといつか心も繋がるのではないかとどこかで信じている自分がいて。くだらない。馬鹿げている。こんな意味のないことをどうして続ける必要があるのだろう。静雄にはわからなかったが、この関係を絶つことなど到底できるはずもなかった。

「んっ……ふ、くぅ……」

 唇をきゅっと結んで眉根に皺を寄せ、勃ち上がった己の性器に必死に指を絡めるその恍惚とした表情は、実に耽美的である。収まりきらない熱を自身で処理することなど彼には日常茶飯事であったが、やはりそれにも限界というものはあった。快感を知り尽くした身体は刺激を与えることによってますます疼き出し、もっと先を求めてしまう。一度掌の中に射精し、精液のべっとりとついた指を後ろの穴に宛がおうとしたところで、しかし静雄は動きを止めた。人の気配。開け放たれたドアの向こうから不安そうにこちらを覗く顔には確かに見覚えがあった。

「……津軽……?」
「しずお、くるしそうなこえ、きこえた」
「あ……」
「おれ、いざやかサイケ、よんでくる?」
「いっ、いい……! 呼ばなくて、いいから……」

 混じり気のない白。静雄の目に映るそれはひどく純粋で朧気で、穢れを知らない赤子のようだった。自分と同じ顔、同じ声、同じ身体をもつはずの津軽は、彼にとって踏み入れてはならない一種の聖域だ。しかしその曇りのない瞳はまっすぐに汚れきった自分に向けられている。いけないとはわかっていながらも縋りつかずにはいられない。そんな自分が情けなくて仕方がなかったが、今それをどうにかしようとする余裕すら持ち合わせていないこともまた現実なのである。

「つがる、こっち、きて……」
「……? わかった」

 不思議そうに首を傾げながらも、ぺたぺたと草履のやわらかな足音を響かせ静雄に擦り寄ってくる津軽は、まるで双子の兄弟に似ていた。もちろん津軽は人の手で作られたコンピュータプログラムであるから、実際に血が繋がっているわけもない。それでも荒んだ静雄の心を癒してくれるのは、この自分の半身とも呼べる存在の津軽に他ならなかった。
 気怠い身体を起こし、くいと着物の裾を引っ張ると簡単にこちらへ転がりこんでくる。少し驚いたように目をぱちくりとしているところへ唇を寄せると、津軽の身体はあっという間にふにゃふにゃと脱力していった。くちゅくちゅと口内で舌を絡め、上顎を擦ると弱々しくしがみついてくる。そんな津軽が愛しくて、ちゅっと軽く音を立てて離れるととろんと熱に浮かされた瞳が静雄を捉えた。

「……きもちい?」
「……わからない、でも、しずおのことは、すきだ」
「ん、俺も……津軽が好き」
「どうすれば、しずお、よろこんでくれる?」
「……津軽が、もっと俺と気持ちいいことしてくれたら……」

 そのとき自分でも何を言ったのか静雄にはよくわかっていなかったのだと思う。ただ、慰めてほしかったのだ。可哀想な自分を。そんなものはただの醜いエゴでしかないのに。
 透けるような津軽の白い手を取り、そのまま流れるような動きで己の下半身へと導く。疑問符を浮かべるひたすらに清らかな彼を利用していることに対し、静雄の心にも僅かながら罪悪感は生まれたはずであった。それでも押し寄せる快感の波に堪えきることはできず。

「俺のここに、津軽の指……いれて……」
「ゆび? いたくないのか……?」
「平気、だからっ……んん!」

 大きく足を開き、自ら孔を広げ、ひくひくと誘う入口に幼い指を招き入れる。すると静雄の唇からひっ、と短い嬌声が上がり、思わず津軽の肩もびくりと跳ねた。どうしていいかわからずにおろおろと戸惑う手首を掴み、さらに奥へぐっと挿入させる。長い指が知らず知らずのうちに肉壁を引っ掻き、そのたびに静雄は短く喘いだ。

「しずお、くるしいのか……?」
「ちが、あっ、あん、きもち……きもちいぃ……!」
「…………」
「ふ……つがる、も、きもちよくなりたい……?」

 「キモチイイ」とは一体どういった感情なのか、作られたばかりの津軽にはわかるはずもなかった。けれどもしそうすることによって少しでも静雄が喜んでくれるのだとしたら、あるいは。静雄の喜ぶ顔が見たい。その一心で津軽はこくりと首を縦に振った。
 静雄のかたかたと快感に打ち震える手が、津軽の纏う着物をゆっくりと剥いでいく。自分が裸にされていくという実感はたいして湧かないのであろう、ぼんやりとされるがままに、津軽は抵抗もしない。同じく生まれたままの姿である静雄は、なめらかな津軽の肌に精液のこびりついた指を滑らせ、そのまま割れ目にそれをつぷりと侵入させた。

「! あ、しず、お、……」
「つがるっ……もっと、もっとぐちゃぐちゃにかきまぜて…」
「ふ、ぅ……あ、ん……」
「ひぁ、あうっ! ……ん……!」

 同じ顔を快感に歪ませ、同じ声で艶かしく喘ぎ、二人はお互いの孔に挿し込んだ指をひたすら淫らに蠢かせる。理性などとっくに吹き飛んでいた。もう何も考えられない。早く、早く早く。もっと奥まで。徐々に動く速度を増していき、指の数も一本から二本、二本から三本へと。ぐちゅぐちゅぴちゃぴちゃ、双方のアナルから発せられる卑猥な音が聴覚すら犯していく。性器が擦れ合うほどに身体を密着させ、息もつかぬほどの口づけを交わし合う。それはとても淫靡でふしだらな光景。

「ん、はう、あっ、つがるぅ、おれ、もうイっちゃ……!」
「っひ、ん、しずお……」
「やら、ああん、らめっ……! ひあああっ!」
「ふぁ、ああ……ひゃうっ!」

 甲高い喘ぎ声のあと、触れ合ったペニスからほぼ同時に白く濁った液体が腹部に向かって吐き出される。指を抜き、息を整えつつも再び唇を貪る静雄は、津軽の身体をそのままシーツの上に縫いつけた。懸命に舌を絡ませ、拙いながらも応えようとしてくれるその姿がたまらなく愛らしい。べとべとに汚れた肌と肌が触れて、まるでひとつになったような錯覚に陥る。

「っ、ぷは……しずお……?」
「……津軽、えっちしよ……」
「……? えっち?」
「もっと気持ちよくなれるやらしいこと、だ」

 にっこりと微笑むもう一人の自分に魅せられて、そうしてまた自ら望んで溺れていく。堕ちてしまえば最後、這い上がることのできない快楽の果てへ、どこまでも一緒に。



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