夏の魔物と僕 | ナノ




#17歳高校生×23歳ビッチ



 ジージーと喚く蝉の声がうるさい。じりじりと照りつける太陽の日射しが煩わしい。そんな夏真っ盛り、いよいよ待ちに待った夏休みの到来である。

「……あっつ……」
「そんなのしょうがねえだろ。今クーラー壊れてんだから」
「よりによってなんでこのタイミングで壊れんだよ……あー、暑すぎて死ぬ……」
「だったらどっか違うとこでも行って涼んでこい」

 この暑苦しい部屋で、珍しく机に向かい課題を睨みつける俺の後ろでは、いい歳をした大人が扇風機を独り占めして怠惰に寝転んでいる。俺も俺で学校なり図書館なりに足を運べばいいのだが、もしあのノミ蟲野郎と遭遇でもしたらと考えると、やはり家に引きこもっていた方がマシだと考えてしまうわけである。
 それにしてもこのバーテン服はいつになったらまともに仕事を始めるつもりなんだ?いつまでも定職に就かずふらふらと、気ままな猫のようにそのへんの男をとっかえひっかえ。たまにこうして俺のところへちょっかいを出しにきたりするが、はっきり言って迷惑だ。それに気分が悪い。…名前も顔も同じもうひとりの自分が存在する、だなんて。

「なあ、シズ」
「なんだよ……」
「折原とはもうセックスしたのか?」
「へ…………は、あ!?」

 な、な、な、何言い出すんだこいつは! 昔から突拍子もない言動をするやつだとは思ってたけど、お、俺がノミ蟲、と、せっくす!? ついに頭が沸いたのか? 大体せっくすっつーのは男同士でするもんじゃねえし、いや、こいつは当然のようにそういうことしてるけどなんていうか! そもそも俺がノミ蟲のこと大嫌いだっていう前提すっ飛ばしてんじゃねえかよ! あああ、くそ、くそっ、

「なーんだ、まだなのかよ。この前あいつとセックスしたときシズのこと狙ってるとか言ってたから俺はもうてっきり」
「う、ううううるせえ! それ以上言うなバカ!」
「真っ赤になっちまって……かわいいやつ」

 どきん。いつの間にかベッドに押し倒されていて、制服の上から胸をまさぐられて。静雄のえろい顔が俺の視界いっぱいに広がる。なんだかんだ言ってもやっぱりこいつは俺から見たって魅力的なのであって、周りの男が翻弄されてしまう気持ちもわからないでもないのだ。こんな余裕ぶったわりに自分は挿れられんのが好き、なんて、そういうとこは理解できねえけど。
 暑くてくらくらする。ふわふわする。ムラムラする。悔しくて首元の蝶ネクタイを引っ張り、噛みつくようにキスをしたら困ったように笑われた。知ってる。静雄にとって俺はただのガキでしかないんだって。そういう扱いにももう慣れた。これはただの遊びだ。本気になるな。俺も静雄も、この暑さで頭がやられちまっただけなんだ。

「んっ、しずお、しずお」
「どうしたんだよ、今日はやけにがっついてんな?」
「うっせ……溜まってんだよ」
「ああ、なるほど」

 すべてを見透かしたような瞳で、それでもあえて核心をついてこないのは大人としての余裕、なのだろうか。そうされるとますます俺と静雄の距離感が明確に浮き上がったようで、なんだか虚しくなった。
 ノミ蟲にもこんなふうに簡単に足を開いたのだろうか。考えたくはなかったがきっとそうだったのだろう。あいつはどんな気持ちで静雄を抱いたのか。静雄はどんな気持ちであいつに抱かれたのか。さっきからこんなことばかりがぐるぐると頭を支配していて、まるで嫉妬しているみたいだ、なんて。

「も、いれたい、」
「ん……いいぜ、ほら」
「っ、あ、きつ……」
「ふあっ、ア、んん、しず、しずっ、ああん!」

 縋りつき、汗ばんだ髪が頬に張りついたその妖艶な姿で淫らに腰を振り、潤んだ瞳でまっすぐに俺を見つめてくる。ああ、やばい。どうにかなりそうだ。静雄、俺はお前が、好き、なのかな。それともこれは恋心に似た一時の感情でしかないのかな。……俺には、わかんねえよ。

「っは、シズ……お前、そのうちマジで折原に処女、奪われんぞ、」
「な、んで、そうなんだよ」
「あいつが、お前のこと、好きだから」
「……え、」
「あっ、ひん! 急におっきくすんな、ばかっ」

 ノミ蟲が俺を好き、だって? バカなこというなよ。そんなの冗談でも気持ち悪い。しかもあいつに処女奪われるだなんて絶対に願い下げだ、いやだ、いやだ。つーかあんなやつのことなんてどうでもいい。静雄は俺のこと、どう思ってんだよ。静雄が俺の処女も奪ってくれんじゃねえのかよ。なあ静雄、静雄。俺、やっぱり静雄が好き、みたいだ。



(100727)





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