きみはしらない | ナノ




#臨静、サイ津前提



 このところシズちゃんが冷たい。いやそんなの元からだって言われたらそれまでなんだけどさ。最近は他の男(主にあの上司)ばっかりで全然構ってくれないし、おかげでセックスもご無沙汰だ。ひとりで虚しく自慰に耽るのももう飽きちゃった。お前はへたくそだから嫌いだってこの前さりげなくひどい言葉で傷つけられたけど、俺そんなに下手かなあ……そもそもそれ以前にシズちゃんがビッチなのがいけないんだ。ああもう。なんであいつの処女を奪ったのが俺じゃないんだ。シズちゃんのビッチ。くそったれ。

「んんっ……ふ、はぁ……」
「あれ、津軽だいぶうまくなったねえ。サイケの舐めて練習とかしてたの?」
「っ、んむ……!」
「まったく……そういうとこはよく似てるから困るよ、あのビッチと、さっ!」

 顔面にどろどろの精液をぶちまけられて恍惚としているその有り様は本当にシズちゃんそっくりだ。同じ顔だからそれもそうなんだろうけど。しかしこいつらもつくづくバカだよねえ。俺に隠れてセックスなんてしちゃって。おもしろいから気づかないふりしてやってるけどバレバレだよ。ちゃんと毎回録画もしてるしね?
 ……だけど吐き気がした。俺とシズちゃんのそれを他人の目を通して眺めているようで、なんだかそれがとても幸せそうに見えて、紛い物であるはずのこいつらが俺にはない何かを持っているようで。どうしようもなく苛々する。

「はあい、津軽。こっちにいやらしいお尻向けて」
「っあ、いざや、もうっ……!」
「なに、そんなにサイケに見られたいの? 俺にぐちゃぐちゃに犯されてるとこ……」

 そんなことを言っても今津軽の大好きなサイケは充電中で意識を眠らせているのだが、それだけはどうしても嫌なのだろう。従順に俺へ白く柔らかな身体を差し出す緩慢な動きが哀れで仕方なかった。ひくひくと誘うアナルの入口にローションを垂らし軽く指で慣らす、ただそれだけで細い腰が自然と揺らめく。ああ、かわいい。
 津軽は俺のかわいいお人形さんだ。言いなりにならないどこかのビッチとは大違い。命令されれば足を開き、どんな屈辱にも歯を食い縛って耐える。もちろん抵抗はされるけどシズちゃんみたいに馬鹿力じゃないから簡単に押さえ込めるし、いざとなれば脅すことも可能だ。あとはおとなしく俺に犯されてあんあん喘ぐだけ。なんてかわいいんだろうねえ、ほんとに。

「ね、津軽。俺とサイケ、どっちとする方が気持ちいい?」
「あ、んうっ、ひ、」
「当然俺だよね? あんな拙いセックスで津軽の淫乱な身体が満足できるわけ」
「やぁ……サイケ、あっ、ああ、ふ……!」

 でも肝心なところで思い通りになってくれない。それがまたシズちゃんを彷彿とさせて腹が立つ。半ば無理矢理捩じ込んだおかげで内壁が切れ、結合部から血液が流れ太ももを伝っていったが、俺が罪悪感を覚えることはない。どんなに泣きわめかれようと行為をやめてやることはない。ただただ無表情で腰を押し進め犯しつづける。
 だって、こいつはシズちゃんじゃない。同じ顔をしていても同じ声をしていても紛れもなく別人なのだ。だからあの日、津軽の処女を奪ってやったあの日、俺のこころがなぜか満たされなかったのは、サイケでも津軽でも、ましてやシズちゃんでもない。たぶん俺が一番愚かだったからだ。あいつに瓜二つのこの人形を重ね合わせ、ずっと欲しかったものを手に入れて満足したような気になって。違うんだよ。俺が欲しいのはお前じゃない、シズちゃんなんだよ。

「はぅ、いた、いたいっ……やだ、サイケぇ、たすけっ……!」
「うるさい……黙って犯されてろよ、……」
「あぁ、ひんっ、ふああっ!」
「っ、シズちゃ……」

 無意識に零れた名前に、ああ、結局のところ俺はあいつを求めて求めてやまないんだな、自嘲する。どろりと熱いものを注ぎ込んで、堰を切ったように泣き出す津軽の臀部を鷲掴み、己の醜い欲望をぶつけることは極めて容易だ。それなのに空しくて虚しくて悲しくて哀しくて愛しくて、なぜだか今無性に、シズちゃんに会いたくなった。



(100706)





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