悪魔は舌から蹂躙した | ナノ




 深夜三時。眠らない街の片隅で間抜けな顔をして安らかな寝息を立てるその姿を俺は見下ろしていた。これが池袋の喧嘩人形と恐れられる化物と同じ存在だなんて、笑う以外に一体どうすればいいというのか。肌蹴た服の隙間から覗く肌は暗闇でもわかるほど白く透けている。それも相まって普段の彼とはまるで別人のような儚さを湛えていて、俺はなぜだか夢を見ている錯覚に陥った。ぎし、とスプリングを軋ませて程よく筋肉のついた腹の上に跨がってみるものの、相変わらずゆっくり胸を上下させているだけで寝返りのひとつも打とうとしない。綺麗な顔をしている、と思った。指を滑らせた頬は柔らかく弾力があり、女のようで。今なら息の根を止めることができるのではないか。ふと思いつき、コートのポケットから折り畳んだナイフを取り出して首に宛がい、少しだけ力を込める。うっすらと赤い線が浮かび上がり静かに伝う様子を眺め、ああ、シズちゃんも人間だったんだ、ぼんやりとそんなことを考えた。

「う……」

 小さな呻きのあと、伏せられた長い睫毛の下から硝子のように透き通った眼球が姿を見せ、はたと俺を捉えた。目を醒ましたといってもまだ思考は働いていないのだろう、こちらを見つめたままじっと動かない。しばらくそうしていてもよかったのだが、さすがに人形相手に何かする気にもなれず。ナイフの背でぺちぺちと軽く頬を叩いてやったところでようやく現状を把握したのか、勢いよく俺の体を押し退けて起き上がった。

「臨也、なんで手前がっ……!」
「いや、特に意味はないんだけどね? たまたま暇だったからシズちゃんのお家に遊びにきただけでさ。ついでに殺せればいいかなあって思ってた……なんてのはナイショ、」

 隙をついて再びベッドに体を縫いつけ、舌にのせたカプセルを唇を割って口内へと送り込む。はじめから抵抗する気などなかったのだろう。あまりに呆気なくごくりとそれを飲み込み、緩い動作で俺を引き剥がす。さすがといったところか、効果はすぐに現れはじめた。本当はこんなものに頼らずとも彼を支配することなど容易にできるのだが、それでは可哀想だ。俺だってプライドを傷つけるようなことはしたくないし、ね。

「俺さ、シズちゃんのそういうところは大好きだよ」

 羽織っていたコートを脱いでフローリングに放り、そのままゆっくりと覆い被さる。期待に満ちた瞳に煽られるようで癪ではあったが、ぞくぞくと背筋を走る興奮に掻き立てられ強引に唇を貪った。激しく求め、熱く濡れた舌を絡め、冷たい掌で胸をまさぐり。我ながら余裕のなさに呆れて失笑してしまいそうだ。じゅるじゅると唾液を吸い上げ、羞恥に塗れたその顔を俺だけが独占していたい、だなんて。



悪魔は舌から蹂躙した

(100704)
提出:傀儡





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -