ロマンスは歪曲した | ナノ




#来神時代



 平和島静雄は困惑していた。夕陽が射し込む放課後の教室、壁に押しつけられた身体、見据える紅い瞳。何がどうしてこうなったかわからずスカートから惜し気もなく覗かせた細い脚を棒立ちにさせたまま静雄は沈黙を守っている。俺の認識が間違っていなければ今俺の動きを封じている相手はあの忌々しい折原臨也だ。たぶん、それは合ってる。けど俺たちは毎日殴り合いの喧嘩をするような犬猿の仲であって、こんな。まるで男と女、みたいな。
 机の上には彼女の鞄だけがぽつんと放置されておりちょうど下校するところだったのだということを暗に示していた。そうだ。ようやく補習が終わって帰ろうと思ったら明日までに終わらせなきゃならない課題を机の中に忘れてたことに気づいて、教室に戻ってプリントを鞄に詰め込んでたら、あいつが、臨也の奴が。俺は顔なんて見たくなかったから無視して横を通り過ぎようとしたんだ、なのにすごい力で腕を掴まれて、いつもはこんな、力なら俺の方が全然強いのに。怒鳴ろうとして静雄は思わずはっと息を呑んだ。それもそのはずだった。彼が普段の嫌味ったらしい笑顔でなく真剣な男の顔をしていたのだから。

「ねえシズちゃん、そんなに緊張しないで」
「な、だ、だったら、手、離せ、よ」
「ごめん、それは無理」

 交わされる言葉は何ら変わりないのになぜだろう。臨也の表情は氷のように冷たく、固く引き締まって揺らがない。どこか寒気すら感じるほどの迫力にすっかり静雄は勢いをなくし気圧されていた。こうして間近で見るとさすがに女子に騒がれるだけあってなかなか顔立ちはいい。これが俗にいうイケメンの類いであるなど静雄は信じたくはなかったが、ここまで至近距離から見つめられればその気はなくとも赤面してしまうわけであって。す、と細長い指がふっくらとした唇をなぞる。は?何してんのこいつ。目を白黒させながら突然の非常事態にとにかく静雄の心中は穏やかでない。しかしこういう肝心なときに枯れ果ててしまったのか声は絞り出せず、無意味な吐息が零れるだけだった。

「不思議だよね。普段はあんなにガサツなシズちゃんが俺にこんなことをされても声一つ上げない。いや、こんなことだから、か」
「っ……、な、ん……なん、だよ、」
「俺ね、シズちゃんとエッチしたいんだ」

 いまだかつてこれほどの衝撃を経験したことがあったかと聞かれれば答えはノーだ。ただしそんな単純な質問にも答えることができないほど今の静雄の頭の中はぐちゃぐちゃだった。意味を理解できなかったわけではない。理解できたからこそ理解できないことがあった。なんだよそれ。なんなんだよ。こいつはずっと俺をそんな目で見てたっていうのか? 心臓が早鐘を打つ。動揺しすぎて何も言えないでいる静雄がやっと開こうとした唇は臨也のそれで塞がれ、紡ごうとした言葉は声にならなかった。やさしく触れてやさしく離れる。臨也の切なそうに細められた瞳に静雄はどうすればいいかわからなかった。

「嫌だって言われても、俺はやめない」
「、おい、」
「シズちゃんは何もしなくていいから。そのままじっとしてて」

 返事を聞くまでもなくセーラー服のスカーフがぱさりと床に落とされた。捲し上げられたその下から桃色の可愛らしい下着が覗く。背中で留められていた金具はあっさりと外され、ぷるんと熟れた果実が零れ落ちる。静雄は羞恥に唇を噛んだ。抵抗しようにも身体ががくがくと震えて力が入らない。声もやはり思ったように出てくれない。はむ、と臨也の唇が右の突起をゆるく食んだ。体験したことのない感覚にどうにかなってしまいそうになる。同時に冷えた掌があたたかい胸をまさぐった。どうして。なんでだよ。やめろよ。声にならない声がいつまでも脳内を駆け巡る。

「ふ、っ」
「感じてくれてるの?」
「しゃ、べ、んな、っあ」

 意に反して発してしまう妙に色気を帯びた自分の女の声に戸惑いを隠しきれない。何考えてんだよ。ここは学校だぞ。いくら放課後でもう生徒が帰ったからといっていつ誰がここに入ってくるかなんてわからない。だから余計にこんな声は出したらいけない。必死に飛び出そうになる嬌声を呑み込んで静雄は息を荒げる。確かに快楽に堪える彼女の表情もそれはそれでそそられるものがあったが、臨也はあまり納得がいかない。咥えていたそれを強く吸ってから離し、あらためて向き合った静雄はもう彼の知る彼女ではない、れっきとした女の顔をしていた。

「これって和姦なのかな」
「は、……?」
「だってシズちゃん全然抵抗しないし、嫌がってる素振りもない。むしろ、」
「ち、ちがっ……!」
「……シズちゃん、」

 慌てて否定するその顔は言葉とは裏腹に真っ赤に染まっている。これじゃあシズちゃんに嫌われてもいいなんて卑屈になってた俺が馬鹿みたいじゃないか。シズちゃんはちゃんと、俺のこと、好きなんだ。声に出さずとも臨也にはわかっていた。だから無言でその華奢な身体を腕の中にすっぽりと収める。静雄は俯いていまだに思春期の少女らしく頬を赤らめていたが、ふと太股を這う掌の存在に勢いよく顔を上げた。

「お、おまっ、どこ触って」
「俺まだシズちゃんの処女もらってないよ」
「はあ!? っ、ん、や」

 そのままスカートの中に侵入してきたそれは徐々に上がっていきやがて布越しに割れ目をつつ、と撫でた。驚愕に静雄の瞳は大きく見開かれ今度こそ脚をぴったりと閉じて抵抗を試みる。だめだよそんなことしても。耳元で囁かれる甘い声にくらくらする。流されるな。何とか自我を保とうと力を入れてみるもののうまくいかない。そうしているうちに再び侵入を許してしまい、臨也の指が恥ずかしい部分を何度も往復する。手で口を押さえ静雄は押し寄せる未知の感覚を恐れた。だんだんとショーツが湿り気を帯びてくるのを感じてきたところで、隙間から一本。静雄はついに堪えきれなくなって目に涙を溜めながら一際高く喘いだ。

「やあっ、!」
「かわいい、」
「も、や…だ、」
「言ったでしょ。シズちゃんの処女もらうまでは何があってもやめてあげないって」

 ずるりとその役目を終えた下着が一気に下ろされ足首を抜かれ無惨に投げ捨てられる。汗と涙で顔を歪める彼女もやはり愛らしかったが、構わず臨也は床に膝をつき右足を軽々と持ち上げた。開脚されたことによりさらなる羞恥が静雄を襲う。それをさらに煽り立てるかのように濡れそぼった茂みへと顔を埋めた彼に彼女の心臓は破裂してしまいそうだ。舐められている。こんな汚い部分を。当然恥ずかしいという思いが一番強かったわけだが、同時に静雄の中を走り抜けたのは言い知れぬ快感だった。

「っ、い、ざ……んああっ」
「ん、おいしい……」
「ばか、っふ、あ」

 この男は何と言ったのだろう。女の性器を舐めてあろうことかおいしい、と。おかしい。ありえない。だが翻弄されている自分も同様だ。先ほどまで口元にやっていた手はぶらりと重力に従って垂れ下がり、与えられる快楽のままに何の躊躇いもなく咽び泣くことができていた。学校の、しかも普段授業を受けている教室でこんな背徳的な行為をしているということ自体がもはや興奮材料になりかけている。開きっぱなしの口から唾液を溢しながら静雄はただ喘ぐ。ぴちゃぴちゃと音を立てながら入口をずっと舐めていた生温い温度のそれがついに膣内を侵食してしまった瞬間、彼女の残された左足は崩れ落ちそうになったがギリギリのところで臨也が支えたので倒れることはなかった。

「や、あ、あ、」

 陰毛を掻き分けて臨也は尚も静雄の恥部をしゃぶる。今シズちゃんがどんな顔してるか見てやりたいけどまずは一回イかせてあげた方がいいかなあ。などと暢気なことを考えながら。滴る愛液を溢さないようじゅるりと吸い尽くし差し入れた舌の動きを速めればびくびくと小刻みに身体が震えて。あ、イっちゃう。ただそれがどういうことなのか理解が及ばない静雄にとってあまりにも唐突に、脳天を衝くような訳のわからない感覚が彼女を襲うばかりであった。

「あああっ! 、は、っ」
「俺の舌だけでイっちゃうなんて…シズちゃんほんとにはじめてなの?」
「んっ、ふ、ざけ、」
「意地っ張り。舐められて気持ちよかったくせに」

 抱え上げていた右足を下ろし同じ目線に立つと静雄が涙目でこちらをきっ、と睨んでいる。嫌われちゃったかな、いや、そんなことないか。眼に力が籠ってないせいかまったく怖くないもの。多分まだ頭がぼうっとしてるんだろう。不意によいしょ、と静雄の身体がふわりと持ち上がり机の上に乗せられた。隣には鞄の置かれた静雄の席、ということは恐らく臨也の机なのだろう。意図がわからずに怯える彼女の髪をやさしく撫でつけ、彼は優雅に微笑む。ただしその唇から吐き出された言葉には一切のやさしさも込められてはいなかったが。

「これからシズちゃんに酷いことするから……だから、先に謝っておくよ」

 ごめんね。そう呟いた臨也の笑顔がどこか悲しそうに見えて。胸が締め付けられるような思いとはきっとこういうことを言うのだろうと何となく悟った。結局のところ静雄が彼に抗うことなどできるはずもない。



(100516)





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