堕ちておいで | ナノ




#モブ静描写あり



 夏の夜は蒸し暑い。だが今はそれとはまた別の意味で全身が熱に蝕まれている。ふと無惨に裂かれたバーテン服がゴミのように丸めて投げ捨てられていたのが視界の隅に映り、悔しくなった。こんなんじゃ幽に顔向けできねえな。しかしそんな思いとは裏腹に、身体の奥底からじわじわと絶えず熱が生まれ己の醜い欲求に逆らえなくなる。抵抗する気も失せるほど薬に侵された俺の肉体は快楽に従順だった。
 正直油断はしていた。学習もせずまたトムさんに迷惑をかけてしまった自分に苛立ちを覚え、とにかく今日のことは酒でも飲んで忘れようと思ったのだ。いつの間にかまっすぐ歩けない状態にまでなっていた俺をサイモンは送ると言ってきたがそれさえ無視して、ぶらぶらと途方もなく通りを歩いていたら臨也から着信がきた。奴は会話の途中で俺が酔っているのだと感づいて早く帰った方がいいだなんて余計なことを言ったが、やはり無視。無言で電話を切った。右も左もわからない状態でとにかく俺は歩いた。家に帰るの面倒だな。幽…は忙しいだろう。新羅か門田のところでもいくか。迷惑がられるだろうけど。うまく回らない頭でそんなことを考えていた矢先だった。背後から思いきり金属バットのようなもので殴られ、気づいたらこのザマ。
 どうやら媚薬か何かを飲まされたのだろう。身体が異様に熱く、見ず知らずの男たちに犯されてもなお抗うことはできなかった。気持ち悪いとは思った。自分の知らない手が肢体を這いずり回っているなんて。だがそれを気持ちいいと感じている自分もいる。それが何ともいえずに悔しい。唇を噛んで精一杯声を出さないよう堪えていたが無理矢理に抉じ開けられ汚い性器を突っ込まれ、舐めろと。いっそのこと噛み千切ってやろうか。一瞬そんな思考が頭を過ったが後ろから揺さぶられすぐにどうでもよくなる。淫乱だと罵りつつも男たちは俺を犯し続けた。それは否定のしようがない。もう毎晩のように臨也に抱かれたこの身体は僅かな刺激も瞬時に快感へ変えてしまうのだから。こんな俺を見たら臨也はどう思うだろう。他の男のものを口と尻にくわえ手で弄らされ、それにもかかわらず恍惚としている俺の今の醜態を。
 プルルルル。乾いた着信音に俺は覚醒した。携帯。プルルルル。俺のアナルに突っ込んでいた男の一人がにやにやしながらそれを手に取り耳に押し当てた。相手は誰だ。下卑た笑いがいい加減に煩わしかったが通話中も律動は止まない。気を逸らすと頬を叩かれ集中しろとさらに責め立てられる。もう何度目かわからなくなるほどの射精を繰り返したおかげか、俺の体力も限界に近い。しかし意識が飛びそうな耳元で俺は確かに臨也の悲痛な叫びを聞いた。

『シズちゃん! 今どこにいるの? ねえ!』
「っ、ん、んう……」
『シ、ズ……ちゃん……?』
「ふ……ああっ!」

 口の中にどろりとした苦味が広がる。もちろん飲んでなんてやらずに全部吐き出したら間髪入れずに次の男が割って入ってきた。まるで絶望の淵に立たされたかのような声。なんだ、心配してくれたのかあいつ。ぶつんと虚しく通話が途切れ再び俺はセックスに意識を向けなければならなくなる。臨也は果たしてここに来るんだろうか。来てほしくないといえば嘘になる。でもこんな汚い雌犬に成り下がった俺を見てほしくないという思いもある。もう何だっていい。自ら腰を振って快楽に身を委ね、男たちにたらい回しにされながらも俺はどこか満たされていた。早くイかせろ。早く、早く。月明かりの下、声が枯れるまで喘がされ身体の隅々まで蹂躙され混沌に沈んでゆく。そうして汗と体液と精液にまみれた俺の元へ臨也が現れることは結局なかった。



「ええ、それじゃあ報酬はまた後日振り込んでおきますので。ご苦労様でした」

 ピ、とボタンを押して通話を終えたところであらためてぐったりと動かないシズちゃんに目を向ける。あーあ、これはまたずいぶん派手に犯されちゃったみたいだねえ。可哀想に。まあ一部始終見てた俺が言うのも変な話だけど。さて、目を覚ましたらシズちゃん何て言うかなあ。ごめんって謝るかな。怖かったって泣きつくかな。どうして助けにこなかったって怒るかな。何にしろまさか俺が裏で糸を引いてたなんて事実にシズちゃんが気づくとは思えないけどさ! だから多分ちょっとやさしくしてあげたらころっと騙されちゃうんだろうね。本当に馬鹿な子だ。でもね、そうすることで君はもっと俺に溺れるべきだよ。俺に依存して俺がいなければ生きていけないような身体になればいい。そうすればもう他の男のことなんて二度と考えられなくなるだろう?

「俺は君が愛しくてたまらないよ、シズちゃん」

 ぐちゃぐちゃのどろどろになった傷だらけの裸体をコートで包みそっと腕の中に収める。ねえ早く目を覚まして。その濁りのない瞳に真っ先に俺を映して。そのか細い腕で真っ先に俺に縋りついて。シズちゃんには俺がいればそれで十分なんだから。



(100416)





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -