攫って奪って | ナノ




#来神時代
#臨静前提




 腰が痛い。いや腰だけじゃなく全身が痛い。自分の身体じゃないみたいに重くだるいそれを引きずるようにして俺は廊下を歩いていた。このところ毎日臨也の相手してたからだな。さすがに現役高校生とそのへんの窶れたおっさんじゃ体力的なものが全然違うわけで。しかもよりによってあの野郎、絶倫ときやがった。俺の身体が限界を迎えようが知ったことではないというふうに涼しい顔をして平気で犯し続ける、そういう奴。気に入らなかった。それでも臨也の提示してくる金額に目が眩んでだらだらとこの関係を続けてしまっているのも事実だ。金のためなら身体だって売る。そんな自分が穢れているなんてわかりきっていた。とっくに。

「門田?」
「ああ……まだ帰ってなかったのか、静雄」

 動かしていた手を一旦休ませてこちらを振り向いた門田の顔は夕陽に照らされて鮮やかに見える。そういや今日こいつ日直だったっけ。黒板の隅にチョークで書かれた名前を見つけて思い出す。何気なく近づいていって覗き込むと案の定熱心に日誌を書いていたようだった。今どきここまで真面目な奴いないよなあ。そういう意味では少し尊敬してしまう。

「そうだ、お前また寝てただろ。今日の授業のノート貸してやろうか」
「いや、でもよ……」
「気にするな。ほら」

 嫌がる素振りも見せずあまりに自然な態度でノートを手渡してきた門田に戸惑いながらも思わずそれを受け取ってしまう。世話になるのは今日が初めてではない。臨也と関係を持つようになってから寝不足が続いていた俺はほとんどの授業を眠りながら受けていた。責任を取ってお前のノートを見せろと臨也に迫ってはみたものの奴はどうやら板書などしたことがないらしい。困り果てた俺に救いの手を差し伸べたのは他でもない、隣の席の門田だった。最初のうちはそれでよかったが毎回となると話は違ってくる。こいつだって顔には出さないだけで正直腹を立てていることだろう。別にノートくらい取らなくても何とかなる。そう思い最近ではなるべく門田に甘えないよう気をつけていたのに。

「どうした?」
「嫌じゃねえのかよ。こういうの……面倒だろ」
「俺はそんなふうに思ったことなんてないけどな」

 さも当たり前のように門田は言い放つ。そうして何も言えない俺を視界から消してまた日誌の続きを書きはじめた。俺にノートを貸すという行為の意味なんて門田は考えたこともないだろう。友達だから。困ってる奴を放っておけないから。それだけ。俺はそんな門田の気持ちをうれしく思う反面、素直に受け止められずにいた。
 一度だけ校内で臨也とセックスをしていたところを門田に見られたことがあった。あのとき目を見開いてそれから何事もなかったかのように静かに去っていったあいつの背中を俺は今でも覚えている。それ以来俺を気遣ってか何なのか門田がそれについて言及してきたことはない。決して追求されたいわけじゃない。ただ以前と変わらない態度で接してくる門田を見ているとたまらなく胸が押し潰されそうになってつらいんだ。

「……でも、お前がいまだに臨也とああいうことをしてるってのは、嫌なのかもしれない」
「なに、」

 す、と一瞬柔らかいものが唇を掠めたのはきっと気のせいではなかったのだろう。門田は赤くなった顔を隠すようにしていつの間にか書き終わっていた日誌を閉じ立ち上がる。何も言わずに出ていった後ろ姿をぼんやりと眺めたままふと思った。なんだよ、あれ。勝手に奪っといて何もなしかよ。じんわりと熱をもったそこにそっと触れる。やべえ。泣きそう。

「はあ……ごめんごめん、いや参ったよ、なかなか離してくれなくてさ、暇潰しにちょっと抱いてあげたからってあの子もしかして俺に好かれてるとでも勘違いしちゃったのかなあ、困るよねそういうの、そもそも俺シズちゃんとのセックスじゃないと気持ちよくなれないし……ちょっと、シズちゃん聞いてる?」

 ほんの少しだけ唇を舐めてみたらさっきの情景が鮮明に思い出されて自然と頬が緩んだ。舞い戻ってきた臨也なんてもうどうでもよくなるほど俺の頭の中は不器用なあいつで埋め尽くされている。



(100411)





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