熱情に縋る | ナノ




 そうだ、ドライブしよう! そんな冗談のような軽いノリに便乗してしまった過去の自分に静雄は心底呆れ返っていた。一体何をどう間違えてあのとき二つ返事で了承してしまったのだろう。そのときの状況をまったく覚えていないわけではない。ただ確かにあの夜静雄は泥酔していてまともな思考を持ち合わせてはいなかった。記憶は曖昧だがその場の勢いでそんな流れになってしまった可能性も正直否めない。それで一応仕方なく今は臨也の運転する乗用車の助手席におとなしく座っているのだ。
 「まさかお前が免許持ってたとはな」外出するにも車を使用するイメージのない臨也がハンドルを握っている光景は静雄には新鮮だった。つい素朴な疑問を投げかけたバーテン服に情報屋はああそれ、と含み笑いをする。「持ってるわけないじゃーん」でも運転の仕方くらいはマニュアル読んだからなんとなくわかるよ。あとは俺の勘だけが頼りかな。まあこれ波江の車だから傷でもつくったら弁償しろって本気で殺されそうだけどね。そう言ってさもおかしそうに笑う臨也とは対照的に静雄の顔は一瞬で青ざめた。

「どうしたの?」
「止めろ! 今すぐ!」

 それまで自分は何を根拠にこんなにも安心しきっていたのか。この男がまともに免許も持たないで運転しようなどという魂胆であったことくらい簡単に想像がついたはずなのに。これ警察に見つかったらやばいだろ。免許証を拝見しますだなんて言われたらどうすんだ。持ってないもん見せられるはずねえだろ。ああどうしよう。かといって最初に確認しなかった俺も悪いから一方的に臨也を責めるわけにもいかねえか。ぶつぶつ。

「ごめん、怒った?」
「……怒る気も失せた」
「大丈夫だよ」
「何が」
「警察に捕まったりなんてしないから。俺を信じて。ね?」

 今さら何を信じろというのか静雄には甚だ疑問だったがあいにく今自分がどこにいるのか把握できていない以上はどうすることもできない。「偽造だけどこういうのもあるしさ」ひらひらと免許証のようなものを見せびらかす臨也はどこからそのような自信が湧いてくるのか非常に得意気だ。こういうことに関しては無駄に頭が働くというか。悩んでいたって現状が改善されるわけでもない。とりあえずは臨也に従っておこう。そうして深く息を吐き出した静雄の上に突然黒い影が覆い被さってきた。

「な、何だよ」
「一応聞くけどシズちゃんさあ、どうして免許も持たない俺がわざわざ危険を冒してまで君をドライブに誘ったのかわかる?」
「どうして、って」
「……あーあ……予想はしてたけどやっぱりわかってなかったか……あのね、ドライブなんてのはただの都合のいい口実で本当は」

 こういうことがしたかっただけなんだよ。がくん、と何の前触れもなく静雄の腰かけていたシートが後方に倒れる。混乱した頭を整理する暇もなく臨也が首筋に噛みついてきて空いた手で胸元をまさぐった。やめろと声を上げたかったがそれどころではないほどの快感が一気に押し寄せてくる。
 スモークガラスでもないこの車では外から何をやっているのか当然のごとく丸見えだ。今のところ周囲に人や車は見当たらないが時間の問題だろう。静雄は必死に声を押し殺して抵抗を試みるが普段の彼からは想像もできないほど弱すぎるそれに臨也は笑うだけ。赤い舌が静雄の肢体を這いずり回り理性を失わせる。しかしこの行為が決して嫌なわけではない。勃ち上がりはじめた自身がそのことを強く物語っていた。

「ここだと体勢的にも無理があるし後ろ行こっか」
「ば、か……か、あっ!」
「俺はいいけど辛いのはシズちゃんなんだからね。ほら、言うこと聞いて」
「ひうっ、やめ……」

 臨也の腕が優しく静雄の身体を浮かせてゆっくりと後部座席へ移動させる。すぐに彼もその上に跨がり一切の隙を与えずに潤った唇を貪った。「ん、ふ」舌と舌がいやらしく絡み合いねっとりと上顎を擦る。静雄はそのたびにびくびくと震え切なく喘いだ。安心させるために手を繋いでやるときゅっと汗ばんだそれが握り返してくる。
 どのくらいそうしていただろう。ようやく解放された静雄はまるで少女のように耳まで真っ赤にして呼吸を荒げている。臨也はそんな恋人を優しく見つめ興奮する己を諌めるようそっと囁いた。

「はい、お口あけて」
「ふっ……」
「うん、いい子。しっかり舐めてね」

 口を割って侵入してきた長い指を静雄は丹念に舐め上げその健気な姿がまた臨也を煽り立てた。くちゅくちゅと扇情的な水音が互いの耳を犯す。そうしているうちにも衣服を押し上げて主張してきている静雄のものがあまりに愛らしく臨也は早急に彼を纏う布をすべて剥ぎ取った。「そろそろかな」ちょうどいい具合に指の方も湿り気を帯びてきたところで口内から引き抜く。直後、静雄のとろんと熱に浮かされた瞳が臨也を捉えた。ああもうそんな顔されたら死んでもいいかも。幸せすぎてどうにかなりそうだったが何とか踏みとどまって後孔に指をぐっと押し込んだ。

「っ……、や」
「シズちゃんの中、すごい熱い……」
「いざ、や……ああっ」
「ん、相変わらず感度もいいね……この調子なら俺のもすんなり入りそうだ」

 曲げたり伸ばしたりかと思えばひくつく内壁を爪で掻いてやったり。好き放題動き回る臨也の指に静雄は翻弄される。反り返って辛そうに先端を濡らしている性器はほんの少しの刺激で呆気なく達してしまいそうだ。

「ねえ、欲しい?」
「あっ……! ほ、し……」
「そうだなー、かわいくおねだりしてくれたら考えてもいいよ」
「ふざけっ……ん、や」
「シズちゃん」
「はっ、い、うかよ……」
「うーん……ほんとは言ってくれるまで焦らしたいとこだけど……ごめん、俺が無理」

 臨也は静雄の内側で遊ばせていた指を抜き取ってそこに付着した体液を見せつけるように舌で舐めてみせる。それを見て急に恥ずかしくなったのか紅潮した顔を隠すように静雄は横を向いた。「シズちゃんかーわいい、」でもちゃんとこっち向いてね。かちゃかちゃとベルトを外しそそり立ったグロテスクな肉棒を入口に宛がうとそれは徐々に彼の胎内に呑み込まれていった。

「ああっ! や、はっ……」
「あは、きゅうきゅう締めつけてくる……きもちいい……」
「ばっ……! も、むり……」
「ちゅーしたい、」
「んっ、あ、んん」

 腰を何度も打ちつけながら酸素を奪うように角度を変えて唇をぶつける。何もかもが激しすぎて静雄の頭は真っ白だ。「すき。だいすき。あいしてる」ありふれた愛の言葉を紡ぎながら臨也は繋いだままの掌を合わせてしっかりと静雄を抱きしめる。知り尽くした性感帯を確実に突いてくる臨也にいよいよ堪えきれず静雄は自らの欲を腹の上に吐き出しやや遅れてその中に大量の精子が注ぎ込まれた。どろりと熱いものが流れてくるのを確かに奥の方で感じる。何ともいえない倦怠感が全身を支配していて狭い座席の上で事に及んだせいかいつもに増して身体が痛い気もする。二人の荒い息遣いだけが熱気の溢れる車内をしばらく満たしていた。

「は……ま、た……中に、出しやがっ、て」
「でもちゃんと後処理はやってあげてるでしょ?」
「そういう問題じゃ……っ! んあ、ばか、いきなり動く、な」
「大体シズちゃんがかわいいからいけないんだよ」
「……うっせえ」
「もしかして誰かに見られてるかもしれないって興奮しちゃった? やらしいなー」
「っ……! 死ね!」
「あれ、そんなこと言っていいの? シズちゃん、っ」
「あ、ひっ! なにまた盛って、んだ、よ……変態!」
「だーめ。逃がさない」

 あ、このシート精液で相当べたべたになっちゃってるなあ。これはもう使い物にならないや。まあでも波江にはまた新しく好きな車を買ってやればいいか。あの女もだいぶ鋭いところがあるから感づいてくれるだろうしそれなりの代価を払えば文句も言ってこないはずだ。何よりシズちゃんの匂いが染みついた車に赤の他人を乗せるなんて俺が許せないしね。ゆるゆると律動を再開させ喘ぐ静雄を見下しつつ臨也はうっすらと三日月を歪ませた。



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