不純で純真 | ナノ




#来神時代



「女の子ってほんとめんどくさいよねえ。何がめんどくさいってそりゃもういちいち挙げたらキリがないくらいめんどくさいことばーっかりだけど。例えばの話。好きな男子に振り向いてもらうためなら友達さえも平気で裏切れたりするとことか、さ。ひどいよね。希薄な関係だ。薄っぺらい。反吐が出る。そもそもなぜこの世界には男と女という異なる性別が存在するんだろうね? って、ぶっちゃけ子孫繁栄以外に理由なんてないか。女の子はどうだか知らないけど男という生き物は常に異性を性的興味の対象としてしか見てないんだから。まったくどうしようもない。まあそういう俺も例外ではないけど誰にでも尻尾を振るような雌犬だけはお断りだね。視界にも入れたくない。大嫌いだ。それこそ死ねばいいと思う。比べて君みたいな子はわりと好きだよ。いや正確にいうと恋愛感情とは少し違うかもしれない。そうだな。君はたぶん俺にとって研究対象のようなものなんだろうね。サボり魔のシズちゃん?」

 いきなり訳のわかんねえことを言いながら爽やかな春風と一緒に窓から入り込んできたそいつはそれと比較するにはあまりにも対照的すぎた。折原臨也。確か新羅の中学時代の同級生とかいうやつだっけ。この前ちょっかいかけられて以来なるべく関わらないようにはしてきたが。それにしても影でかさかさと動き回る様子はまるであの害虫とよく似ている。所詮は気に入らねえノミ蟲野郎ってことだ。そんな奴に親切に言葉を返してやるつもりはさらさらないわけで当然のごとく俺は無視を決め込んだ。

「あれ、シカト? ひどいなあ。さすがの俺も傷ついちゃった」
「…………」
「なーんか空気がピリピリしてる。でも気持ちはわかるよ。今日は二日目だもんね」
「…………は?」

 あれだけ奴のことは無視しようと決意していたにも関わらずその言葉を聞いた俺は思わず横たえていた身体を起こさずにはいられなかった。こいつ今何て言った? どうしてそれを知ってる? スカートをしっかり押さえながらあくまで動揺を気取られないよう折原臨也を睨みつける。しかしそんな精一杯の虚勢も奴には通用していないようでふっと鼻で笑われただけだった。ムカつく。殺してえ。
 何か投げるものはないかほんの一瞬視線を逸らしただけなのに奴が一歩こちらに近づいたのを視界の片隅で捉える。くそ、油断も隙もねえな。これ以上近寄られることを許すわけにもいかず仕方なく得物を探すのは諦めて再び折原臨也を睨む作業に集中した。だらしなくにやけやがって。虫酸が走る。

「おっと、そんなに見つめられたら俺に気があるんじゃないかって勘違いしちゃうよ」
「誰が手前なんか! つーか適当なこと言ってんじゃ、」
「自分の身体のことは自分が一番よく理解してるだろ? それに君の生理周期くらいとっくに把握してるから嘘ついても無駄」
「な……っ!」
「どうせお腹痛くて寝てたんでしょ? でもプライドの高いシズちゃんには絶対に生理痛が辛いから休ませてくださいなんて言えない。そこでサボりという名の常套手段を使うわけだ。やっぱり女の子ってめんどくさいね。俺には堪えられそうもないよ。でも遺伝子を残すためにはそういうのも必要だしだとしたらしょうがないのかなあ。そんなことよりずっと気になってたんだけど」

 なんだ! なんだなんだなんだ! こいつ前から思ってたがやっぱり頭がイカれてやがる! ふつう女の前で堂々とそんな……せ、生理……とか言うもんじゃねえだろ! 大体俺の周期を把握してるってなんだよ! ストーカーなのか? いやたとえストーカーだったとしてもそんなことどうやって知るんだよ! マジで気持ち悪い! 警察に通報した方がいいのかこれ?
 俺が顔を青くして口をぱくぱくと開閉させているのを見るなり折原臨也は獲物を見つけて瞳をギラギラと輝かせる獣のようにパッと満面の笑みを浮かべた。でも俺は知っている。こいつの笑顔にはいつも裏があって俺の嫌な予感はこういうとき必ずと言っていいほど的中してしまうということを。

「なあに、すっかり怯えちゃって。シズちゃんらしくない」
「そ、それ以上近寄んな! ぶっ殺すぞ!」
「女の子なんだからそんな物騒なこと言わないの。そうそう話は戻るけど、俺はただどんなふうに君の膣から血が溢れてくるのかその仕組み自体が知りたいだけであって君とこんな消毒液くさい保健室で誰かに見つかるかもしれないとハラハラドキドキしつつも汗やら精液やらでベトベトにまみれながら生臭い青春じみたセックスをしたいわけじゃないよ。そっちがその気だってんならまた別だけどさ」
「な、なななな! お前! さっきからふつうに喋ってるけどな! デリカシーとかそういうもんはねえのかよ!」
「それ、君に言われたくない言葉のベスト3には入ってるよ」

 呆れたように溜息をつきながらも折原臨也はだんだんと迫ってくる。一体何をするつもりだ? さっきからごちゃごちゃといろいろ言ってたような気はするがたぶん肝心な部分を俺は理解できていない。だからこそ余計に恐ろしい。
 何なんだよ、気持ち悪い、どっか行け、死ね、頭の中では既に浮かんでいる言葉もなぜか声になってはくれず。やべえ。襲われる。しかし奴の手がスカートの裾に触れたところでようやく俺は自分でも驚くような悲鳴を上げた。

「やっ!」
「……え、」
「…………あ、い、今のは」
「…………」
「…………」

 いつまでそんなふうに沈黙が流れていただろう。いよいよ堪えきれなくなって俺は赤くなった顔を腕で隠したままベッドから立ち上がった。今のうちに逃げてしまえ。今日あったことは全部忘れる。折原臨也のストーカー発言も俺の出した気色悪い声も。全部忘れてやる。だからとりあえずはこの場から逃げよう。
 そう思って立ち尽くす折原臨也の横を早足で通り過ぎようとしたが強く腕を引かれたせいでそれは叶わなかった。こんなモヤシみたいな体型の男でもそのくらいの力はあるのかとぼんやり考える。ていうか顔が近え! こっち見んなよストーカー! なるべく奴の顔を見ないようにしながら心中ではそんなことを考えていた俺だった。

「ねえ、シズちゃん」
「な、んだよ、離せよ……それよりその呼び方やめろって、」
「キスしたくなっちゃった」

 その直後俺が咄嗟に繰り出したアッパーカットが折原臨也の顎に綺麗にクリーンヒットして奴が文字通り病院送りになったことなどはもちろん言うまでもない。



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