飛  ん  だ  言  葉







いつも以上に、眠たい先生の声をほとんど聞き流していた私は、コクコクと頭が上下に揺れて、今にも眠りに入りそうな状態だった。つーか寝させてください。私は昨日一睡もしていないのよ。決して不純な行為をしていたわけじゃない。そう、ただ眠れなかっただけ。どうにも、この頃、不眠に陥ってしまっている。ああ、私の体どうなってんだ。寝たい。ノートが真っ白なフカフカ枕に見えてきた。
だけど今眠ったら確実にやばい。だから重い瞼をきつくこする。摩り過ぎた。いたい。

もうすぐで夕方かあ・・・眠たさを紛らわそうと外の景色を見つめてみるけど、余計にうつらうつら・・・眠たくなってしまった。

「おい!これ見てみろよ」

先生の声を聞き流していた耳に、突如、聞こえて来たのは弾んでる声だった。ああ、めんどくさいちゅうねん
このまま無視しよう、そうしよう。ひとりでに賛成して聞えない振りをしていた。だけど、奴は答えない私にキレて横っ腹をパンチしてきたのだ。こんなか弱い乙女にありえないんですけど。なんでこんな奴が隣の席なんだ。

右を見たら嬉しそうに笑っている。子供っぽい笑顔が可愛かったのは悔しい。だけど今の私には全てが邪魔なのよ!眠いの。

「うっさいな」
「これ見てみろって」
「(無視ですか)」

私の睨みも効かなくて、仕方なく見てあげる。
思わず噴出してしまいそうになる。だけど睡魔はどっかに行った。

「あんたさ・・・」
「ん?」
「下手」
「ほっとけ!」

私が見たものは真っ白な紙で作られた、へたっぴの紙飛行機だった。
折り目なんて見れたものじゃない。何だこれは。全く持って折り目正しくないぞ。

「飛ぶの、これ?」
「オフコース」
「へー(バカだ、コイツ)」
「つーわけで飛ばしてみる」
「はあ!?」

止めに入ったのも時すでに遅し。ヤツは紙飛行機を勢いよく飛ばす。窓際の席の私の目の前をそれが通った。
窓の向こうへと飛び出した紙飛行機。
心もとない、危ないその動きに思わず心配となってしまう。
思わず紙飛行機の行方を追ってみる。


・・・ポテ

「やっべー」
「ていうか、飛んでないじゃん!」
「いや、ちょっとは飛んだだろ!」
「しょっぼ」


「またお前か」
いつの間にか、近くにいた先生にヤツはゲンコツをくらった。
よかった。とばっちりを受けずに済んだ。共犯と思われでもしたら、実に不名誉だ。
授業が開始されても、そんなに痛いのか、頭を摩りながら、ヤツは紙飛行機を強く握り締めている。


「自業自得でしょ」
そう言ったら睨まれた。
紙飛行機なんか作るからだ。
だが、これで反省するヤツではなかった。
しまいには、罰として居残り授業までくらっていた。





夕方になって赤々と燃えている太陽を見ながら私は中庭を歩いていた。
夕食前の散歩だ。最近少し太ってきてしまったからである。
寝不足で肥満って最悪じゃん。ぶふふ



「おーおまえイイところに!」


きっと空耳よ。だけどシカトしてもいられなくて


「おい、聞こえてんだろ!」


溜め息をついて、元気な声の持ち主を探す。キョロキョロして見渡してみるけどその声の主はいなかった。


「上だって」
「え?」


上、それを聞いて私は思わず上に顔をあげた。途端、顔面を目掛けて何かが飛んできた。
避ける事も出来なくて、私の顔にコンッと当たった。
手に取れば、やはり折り目の汚い紙飛行機だった。
だけど、今度はしっかりと飛んでいたように思える。


「ちょっとー!危ないじゃない!」
「中身読んでみろって」
「ぎゃー!?」


ヤツが窓から身をのり出しながら、言うもんだから思わず叫んでしまう。
外 に 出 て い る 体 を 中 に 戻 せ ! 
落ちてくることはないな、と安全確認してから、私は紙飛行機に目を戻した。


「何か書いてんのー?」
「見れば分かるって!」


ガサガサと紙飛行機を開けていく。
可愛く笑っているヤツ。
何故か心臓が怖いくらいドキドキしてきた。
私だって十分に乙女なのだ。華の女子中学生なのだ。


だ、だって、こういう展開ってアレでしょ!あれだ!!
開けたら大きく「好き」って書いてるに違いない!ぎゃー!好きなんて言われちゃったらどうしよう!ヤツは、バカだけど可愛い。うーん。どうしようかしら。




そして、真っ白な紙のど真ん中に集中する。






【お前、寝てるときヨダレ垂れてんぞ】



思わずグシャっと紙を丸めた。


「アンタ喧嘩売ってんの?」
「いやいや、俺そんなもん売るほど貧乏じゃねーよ」
「乙女に失礼だ!」
「ありがたく貰っとけよ!(はッ)」
「こんなもん捨ててやるわよー!」
「ひでー」
「どっちが!」


ヤツはケラケラ笑っていた。
期待していた私がとてもバカみたいに思えた。くやしい。なんてことだ。


「あ」
「どうしたの」
「やべ、・・・じゃあな!」


窓がガラガラと閉まる。
きっと先生が戻ってきたんだろう。
先生、居残り授業お疲れさまです。と労う。
懲りずに紙飛行機を作っているぐらいなんだから、まだ帰らしてはもらえないだろう。


ああ、夕日が眩しいな。おい
「チクショー」


見た目は汚いけど、ちゃんと飛んだヤツの紙飛行機
私はボロボロのぐしゃぐしゃになった紙飛行機を見つめて「捨てられるわけない」と呟いていた。
少し甘酸っぱいと思った。



























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