「聞いたよ、振られたんだって?」
「笑いに来たんなら、どっか行って下さい」


私は湖の近くの大きな木の下で、落ち込んでいるシュウを見つけた。





さくらは、学校1カッコいいと言われているシュウの隣に座る。
その様子をシュウはただ、見ているだけで、何も言わなかった。
その無言は、ここにいる事への暗黙の了解。それを知っているから、さくらも何も言わずに座る。



「で、何て言われたの?」


単刀直入に聞いてみるさくら。
さくらは、そう手間のかかることが苦手で、遠まわしに聞くなんて事、絶対無理な性格だ。
直球勝負で何事も望む。言うならば、さくらは馬鹿に近かった。
そして直球勝負の挙句、さくらは痛い目をよく見ている。
これは、長い間さくらと共に過ごしてきた、シュウ自身が良く分かっている。

だから、こんな失礼な事をイキナリ聞かれても怒らなかった。
シュウは出そうになる涙を何とかこらえながら、口から二酸化炭素を出した。
そして溜め息が交じる。今度は酸素を取り入れる。



「嫌い、だってさ」


震えてはいないが、悲しみに囚われた声だと、さくらは分かった。

シュウには好きな人がいた。
まあ、シュウだって年頃なのだから居て当然な事だが、その相手とは年上の綺麗な先輩だった。
さくらは1度だけ、その人と話した事はあるが、それ程までには好きになれなかった。
多分、その人に対して嫉妬心が強かったためだろう。

でも、半分以上が他の理由である。
その先輩は、遊び人だったのだ。
だが、シュウは、それさえも分かっていながらも好きになってしまった。
どうしてあんな女好きなのだろう、とつくづく思ってしまう。でもこれを言ったら、きっとシュウに絶交されるから、やめておくことにした。



恋って言うのは止められないもんだねぇ・・・

サワサワ動く、木々の葉を横目に、何かを悟るかのような、さくらのその姿



「俺って一生独身かも」
「情けないなぁ、シュウ!」


一応、返事は返しておかないと失礼だと思って、適当に頭に浮かんできたことばを言ってみる。
その、適当な返事にシュウは一層、落ち込みだす。

友達も恋も儚く散ったシュウの青春。
自分でそう小さく呟くと何とも情けなかった。少なかれ、さくらの言葉は当たっていた。


「もう駄目だ・・・」

シュウは、倒れ込むかのように木にもたれかかる。
さくらは目だけ追って、草の上に寝転がった。


「はぁ!?お前、スカートなのに何寝転がってるんだよ!」
「誰も見ないってー」
「そういう問題じゃないだろ」
「シュウもさぁー、寝転がってみなよ」

気持いいよーと、さくらが付け足す。


全く女としての恥じらいを感じさせないさくらに、先ほどとは違う意味を込めた溜め息がシュウの口から出た。
だが、その次の時にはシュウは、ふっと笑った。



「たまにはいいかもなー」
「おぅ!」



ドサ


草はシュウの重みに耐えられなくなったのか、ヘニョヘニョに倒れる。
さくらはその様子に微笑み返す。





「光合成ー?」
「馬鹿、俺らはれっきとした人間です」
「そうだっけー?」




いつもなら、くだらないと思う会話が今はとてつもなく優しいものに感じる。
さくらとのトンチンカンな会話、言葉に不思議と癒されている自分が居る事に気がつく。

眩しい日差しに、シュウは目を閉じた。






「強がらなくても、泣けばいいじゃん」


あっけらかんとした明るい声だったけど、とても深い思いを秘めた、さくらの声と言葉を耳にする。
慰めてくれているのだろうか、と思いつつシュウは目を開ける。


「男が泣けるか」
「そういうのってさー、関係ないでしょ」
「男はそう安々泣いちゃいかんと死んだばっちゃんが言ってたぞ」

誰よ、ばっちゃんって・・・さくらがそう突っ込んでいた気がする。


「だから、泣かないの?」
「そうです」
「ふーん」


開けている目に、眩しい日差しが降り注ぎ、チカチカとして目を開けているのは無理だと思った。シュウは再度、目を閉じる。
さくらも目を閉じているのだろうか、そんな疑問が出てきたが別に気になることでもなかった。






「泣きたい時に泣いとかないと、前に進めないよ〜。一体、何を我慢してるの。シュウ」


何故かその声が、その言葉が妙に浸透していく感じがした。










「泣けるのは今しかないのに、これから先、本当に泣ける時がなくなったらどうするのさ」


無意識に目の辺りに腕をかぶせる。
そう、日差しが眩しいのだ。



「ねぇ、悲しい時に、泣けない人ほど可哀想だと思わない?」


その問いかけに答える事は出来なかった。
だけど、さくらは、それに答えられないのも察して文句は言わない。




「その死んだ゛ばっちゃん″は、きっとさ。

シュウに大切な涙を、意味のある涙を流して欲しかったんじゃないのかなぁ」




ああ、なんだろうこの感じ・・・




顔に押し当てた腕との隙間から、ちらりと見てみたら、寝転がっているさくらは、以外にも目をぱっちりと開けていた。
その瞳にはしっかりと太陽の光を受けていて、



「もしかして、シュウが泣けないのってやっぱ草だから?」


まだ光合成の話はあったのかと心の中で突っ込む。


「そうかもな」
「あ、やっぱ光合成か!」
「光合成さいこー」


最後のシュウの声は震えていた。




「早く、元気になりなよ」
「おう」
「あの人にシュウはもったいないんだから!」


お世辞か慰めかは分からなかったけど、

さくらが傍に居てくれてよかったと思ってしまったのは日差しのせいで、目が眩んだからで、




未だ顔に押し当てた腕を放せないのは、

流れ出るものに気付かれたくなかったから。




だけど、そっと隣で、さくらが微笑んだ気がするから

きっと、さくらは俺が泣いていても、知らない振りをしてくれるのだろう、と。

なので、そのままその優しい光に、有難く浸らせてもらうことにした。






振られたのは、俺には、もっと似合うヤツがいるからだ。
「あの人に、俺はもったいない」と言う、さくらの言葉を信じてみようではないか。


そよそよ、風に乗って、草木は揺れる。















流れ出る涙に温かさを感じたのは気のせいではない。
























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