It`s a BOKEMUSI!



え、それは何?








「あ、ボケ虫」



「・・・は?」


さくらが言った。







Never in my life have I heard such a thing.








さくらは手を左右に激しく振っていた。狂ったようなイカレタその行動に俺は夏なのに何故か寒いと思ってしまった。目はもうさくらなど見ていない。







「ボケ虫どっか行けー!!」
「何その虫」
「ボケ虫だってば!」
「いや、だから何その虫」
「ボ・ケ・虫!」







俺はボケ虫という虫が全く分からなくて何度かさくらに問うが、さくらは手を狂ったかのように左右に揺らし続けたままで戦っていた。というかボケ虫なんてこの世に存在したのだろうか。
ふーふー、と荒い鼻息が聞えてきて(俺なんでコイツと付き合ってるんだろ)戦いが終わった事を示していた。







「ボケ虫なんていなくなればいいんだ!」
「それって、どんな虫?」
「えー!?ボケ虫を知らないの!?」
「聞いたことない」
「案外、シュウってバカだったんだねー」
「お前の方がバカだ」
「ボケ虫さえ知らないくせに!やーい」
「ボケ虫なんて知るか!つーか、何だ!そのヘンテコリンな名前は!!」
「あっはっはー」







勝ち誇ったようにふんっと鼻を鳴らしたさくらに不味そうなイチゴケーキを投げつける。このケーキは俺達が部室に来たときからあった物で、かれこれ2時間はずっとここにあっただろう。さくらは目をキラキラさせて食べてもいいかな、と言っていた。その矢先にボケ虫という虫がさくらを襲撃した。
そしてシュウは、持て余す怒りを、ケーキを投げつける事によって発散させようと考えた。俺のコントロールは確実にさくらの顔へと跳んで行った。
一瞬さくらは「ケーキ投げるなー!」と叫んだ。だが意外にもさくらの運動神経は、この時はとても良く、ギリギリ、寸前で、間一髪、横に、避けた。
避けたのだ。避けた。避けた・・・さけ、






べチョリ









「ヤバイ」
「へ?どうしたの、シュウ」





迫りくるケーキから華麗に横に避けた、さくらは青い顔をしているだろう俺の顔を不思議そうに見つめてきた。だけど、それ以上何も言えなかったのだ。言えるはずがない。恐ろしい。













「さくらの言うボケ虫ってコバエの事なんじゃないかな」












「あ・・・」
「(もう駄目だ)」







冷ややかな声にさくらが恐る恐る後ろに振り向いた先に見えたのは真っ白なクリームが見事に顔全体に付いた微笑むユウ少年だった。クリームをぬりたくり、スポンジの部分はボロボロになり顔のトッピングになっていた。制服も大量にやらかしている。
さくらは、今はもういないボケ虫を心の中、見つめた。










「あのさあ、ここに置いていた僕の為の美味い高級イチゴケーキ知らないかなあ?」









ごめんなさい。と言わんばかりのさくら
あのイチゴケーキはユウの大事な大事なケーキだった事に今更ながら気がついてしまって。というか、そんな大事なケーキだったらこんな所においておくんじゃねー!何て口が避けても絶対言えなくて。ただ頭を深々と下げるしか出来なかった。
土下座でもしてしまうほど怖くて、だけどそんなことぐらいじゃ許してくれないだろう、笑顔の少年を見てさくらは冷や汗をかいた。
と、体が軽くなった感覚がした。







「・・・さくら逃げんぞ」
「ええ!?」







急にシュウに引っ張られた私にユウの横顔がチラリと見えた。その顔はニコニコ笑っていた。悪魔みたいだ。
廊下を走る。後ろから冷たい「あはは」と笑い声がした。ユウに追いつかれたらきっと死んでしまうだろう。だけどシュウがいるから大丈夫な気がするのは何故だろう。握られた手に頬がほころんでしまう。










「あれってボケ虫じゃなかったんだね」
「当たり前だ。バカ」
「でもさ、私生まれた時からボケ虫って言ってた気がするんだけど」
「お前どんな教育受けてたんだよ」
「知らなーい」
「そのせいで今こんな事になってんだっつーの!」
「シュウがケーキ投げるからでしょー!」
「お前が避けるからだろ!!」
「避けないと私に当っちゃうじゃんか!」









ブーン


「あ、ボケ虫」
「もう、いいって」
「シュウの頭に」
「まじ!?」
「うっそー」









ボケ虫ボケ虫
鬱陶しいんだけど。









「でもショックー」
「何が」
「ボケ虫じゃなかったなんて!」
「そんな虫いるわけないんだよ。気づけよ」
「私の15年間は一体何!?騙されてたよ!」
「は、可哀想に」









ボケ虫ボケ虫
ずっとボケな虫だと思ってた。何でボケ虫って言われてるのか知らなかったけど、何となくボケ虫って定着していていつの間にかボケ虫って呼んでた。それがウソだったなんて。一瞬ユウの言葉に地獄を見てしまった。そう、目の前の笑顔のユウよりだ。

つーか、ボケ虫なんてどうでもいい名前つけるわけねーだろ、と言ったシュウの背中を叩いた。ボケ虫、ボケ虫。何かコバエより可愛い気がする。ていうか、本当に私の家族はボケ虫って言ってるんですけど。代々受け継がれてきたのかなあ









「ボケ虫も生きているんだよねえー」
「当たり前だろ」
「当たり前ですか」
「そうですよ」
「でも当たり前には生きたくないよね」
「は?」
「ううん、コッチの話」









繋がった手を離したくないと思った。これが当たり前だ何て思っていたけど、当たり前じゃないのかもしれない。
ボケ虫だって生きてるんだ。当たり前じゃない。限りある命を生きてるんだ。今度から邪険にしないでいてあげようか。
でもコバエって呼んであげない。だって可愛くない。










「私って当たり前にシュウが好き」
「急に何だよ」
「何か、わかんないけどさ。言いたくなった」
「あ、そう」








そっけない態度にカチンときたが、ふいっと顔を背けたシュウの頬が少しだけ赤くなっていたから許してあげよう。














ブーン

甘い香りに誘われて、ボケ虫はやって来た。


































Is that a natural thing to you?


当たり前に生きてるなんてあり得ないんだ




よっ!













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