「何の真似?」 「自殺」 風がビュウビュウ、体を揺らす。 マルゲリータッ! 「しゅーう」 「お前な」 「何でもないよー」 「じゃあ、呼ぶなって」 「うふふ、呼んでみたくなったのですよ」 そう言ってヘラリと笑ったさくらは、可愛くて何もかも今なら許せてしまいそうになる、そう許してしまうだろう、とシュウは思った。しかし、何だ、この状況は。この状況すら許せと言うのか。シュウの頭の中には目の前のさくらしか写っていなかった。そして冷や汗を流しつつ一歩ずつさくらに近づいたのだった。マジ、ありえねえ それと同時にさくらが足を一方後ろ進めた。瞬時にそれを把握して駆け寄ろうとしたシュウにさくらが大声で「来ないで」と叫ぶ。その声にまるで地面に縫いあわされたようにシュウの足は動かなくなってしまった。冷や汗が流れる。シュウは目の前の笑っているさくらを見て、これでも許せるのか、と自分に問いかけた。しかし何故彼女はここで、こんな事をしているのか。ここから先は柵さえない。もしここから落ちれば、きっと即死は間違いないだろうという高さであって、もしじゃなくて、さくらは本気で飛び降りようとしているのだ。シュウは立ち眩みに陥った。 「何で、そんな事してるんだよ」 「死にたくなったから」 「死にたくなったって、お前は将来安泰だろうが」 「そうじゃなくてさー」 「何」 「何か、生きてるのがめんどくだくなったんだよねぇー」 「そんな理由で死なれて溜まるか」 「めんどくさい、今ここでシュウと話していること自体もめんどくさい」 「俺ってさくらの何?」 確か、間違いでなければ、さくらは自分の彼女だったはずだ。しかし、この状況に出くわして何故か本当に自分の彼女なのか分からなくなってきた。精神的にさくらが危ない人間にしか思えなかった。何せ、めんどくさいを理由に死ぬ奴なのだから。どうすれば、自殺志願者を止められるのか、昔本を読んだ気がする。だけど、思い出せない。どうした、シュウ 「シュウ、大好き」 「じゃあ、こっち来いよ」 「シュウ、手震えてるよ?」 「お前のせいだっつーの」 ヘラリ、と笑っているくせに今しようとしていることは恐ろしい。シュウは全身に鳥肌が立った。 「死ぬなよ」 「死ぬもんねー」 「俺の彼女でいることもめんどくさいのか」 「そうかもしれない」 「さくらが死んだら生きていけない」 「情けないよ、シュウ」 もはや、さくらにどんな言葉も無意味なのか、絶望の色しか目には浮かばなかった。 もう1度だけでも、抱きしめてあげたいと言うのに、シュウは一歩ずつさくらに近づいた。 それに反応してさくらも少しずつ、だけど確実に垂直になっている所まで下がっていく。 さくらの足が確実に死へと伸びていく。そして焦りの色が見られるシュウの必死の説得の言葉に、さくらは微笑んだ。 「シュウは本当は私のことなんて好きじゃないんだよ。私の事なんかより太郎達の方が大事なんだよ。今まで気がつかなかった?私なんか好きじゃないんだよ。もう、めんどくさいわけなんですよ、だから、さ、もうほっといてよ。私なんかどうでもいいじゃんか、だから死んでも」 「それ、本気で言ってるわけ?」 段々と縮んでいく距離、そしてシュウのドスの聞いた声にさくらは目を見開いた。 そして鋭い目で睨まれて、足がもう少しというところで動かなくなってしまった。 そのうち、ガシっと言う音が聞えるほど強く握られた腕が痛くて、離して、と言おうとした言葉はシュウに抱きしめられて顔がボフッと腕の中に埋まってしまった。 「俺はさくらが好きだ」 「・・・」 「だから、死なないでくれ」 「だって、さ・・・」 シュウの胸に頬をこすりつけながら、涙を拭きながら言ったさくらの声は震えていて、シュウはさくらの髪の毛をサワサワ撫でた。 「だって、今日私の誕生日なんだよー!」 その言葉に事の真相が分かったシュウは青い顔をして冷や汗をかすかに流して、サワサワ撫でていた手が止まった。 「それぐらいで死のうとしたわけ」 「忘れてたくせにい」 「すみません」 「だから、死んでやるー、って思ったんだよ」 シュウからのプレゼント楽しみにしていたのに、太郎達となんか楽しそうにしてるし!とシュウの足をゲシゲシ踏みながらさくらは言った。 「シュウが誕生日忘れるから悪いんだよー」 「すみません・・・」 とり合えず、これからは誕生日もきちんと付き合って、1年目記念日も忘れないでいようと心に誓うシュウだった。 |