「へー、和樹ってあの子が好きだったんだ」 「うっせー、お前絶対言うなよ」 「あはは、照れちゃってるよ」 「黙れ、このゲス野郎が」 「そんな汚い言葉使うほどあの子が好きなんだね」 「は、意味分かんねーよ」 「睨んだってほっぺが真っ赤です。怖くないですよー(ぶふふ)」 「そのアホ面再起不能にしてやる」 「和樹こそ意味分かんないよー」 「お前ら、あとで生徒指導室に来い!!」 Everyone wishes for their own happiness. Wish Wish!Wish!Wish!Wish! Wish!!! 「告白しなよー」 「ほざけ」 私は近くに座っている男子の聞えてくる会話とは、反対方向にある窓の外を見つめた。別に空を見たかったわけではなく、と、言ったら空に失礼になるかしら。だけど、ココ以外に視線を送る場所がないのだ。前を観れば大嫌いな先生(名前知らない)右を向けばうるさい男子。 全く持って嫌な席に座ってしまった。今更ながら後悔した。 そして先程、注意されたばかりであるのに、男子2名の話し声は続いている。先生はすごい形相で睨んでいた。一部の女子も、その会話に気持悪いほど釘づけだ。 何故なら、その会話をしているのが新井太郎と小林和樹だからである。 新井太郎はどうでもいいとして、小林和樹はモテる。そんな彼が話しているから女子が気になるのはしょうがない。しかも、小林和樹の好きな人の話で、恋話なのだから。 ていうか、小林は「秘密にしろ」、とか「言ったら殺す」とかまだ言ってるけど、その会話の全てがここにいる皆の耳にちゃんと届いているんだよね。普通気がつくだろ。もう周りにバレてるよ、あんたが恋する男ってこと。もしかして、そこに気が回らない程、その子の事が好きで考えられないとか? ああ、それにしてもに新井はきっと笑っている。彼は絶対確信犯だ。 「当って砕けなよ」 「俺は砕けん」 イライラ 授業がこんなにも憂鬱だ何て。しかし先生の顔怖いな。青筋通り越して爽笑顔になってるよ。こりゃ 私たちにまでとばっちりがくるのも時間の問題だ。・・・あー!もう!うるさいうるさいうるさいよ 笑止千万だよ。 ガリガリ ポキ 「・・・」 ボールペンの芯が折れた。 もう、いやだ。授業なんて。うう、もう無理なんだよー!ああ、そうさ!そうだよ!!私は小林和樹が好きなんだよ!何か文句ある?!痛いんだよ!望のない恋って分かってたけど、やっぱり彼は遠い存在だって分からされたんだ。つーか、色恋話なんてほかでやれ!この馬鹿野郎!!アンタのせいで私もう恋なんて出来やしないわ!傷心さ、したとも。 窓の方を見ていたら飛行機雲が見えた。わー!すごーい!!と思っていたらそれはすぐに消えた。消えた。(何か見捨てられた気分なんですけど) 折れたペンを片手に、私には、ずっと真っ白なノートと、日中は真っ白な雲がまるで違う色に思えてきた。だって雲は今、真っ赤に淡く染まりつつ合って、グラデーションのように美しい。気がつけば今が夕方だった事に今更思い出した。ああ、私もう駄目かも。 そう考え出したら彼等の会話などどうでも良くなって、ていうか全く耳に入ってこなくなって、ペンを買わなければならないことに嫌気が指してきた。生憎私はお金を持っていないのだ。家が貧乏なのだ。(悪いか) 気がつけば時間は川の流れのように穏かではなくて、急流のように早くすぎていた。 「今日はこれまで」 私は開放感に満ち溢れた喜んでいる心にエールを送った。それにしても最後までしゃべり続けていたのか、先生はドスドスと音を立てて歩いて、教室を出て行くときバンっとドアを思いっきり開けて出て行った。ぶ、っとどこからともなく聞えて来た噴出す声。笑ったのは紛れもなく彼等だった。しかも、教室にいるほぼ半数の生徒が笑っているようである。この人たちは授業をボイコットしたいのか。ふと思った。 そうこうしている内に対して仲のよくない友達が私のもとにやって来た。その友達と教室を出て行くときチラッと小林和樹を見たら何故か目が合った。吃驚してすぐさま逸らしたけど、心臓が痛いほどドキドキ言っていて平常心を保つのに必死だった。ひとりでしゃべりまくっている友達に気がつかれないかヒヤヒヤしてしまった。(止まりやがれ、心!私の恋は儚くもう散ったのよ!) 鼻がグズっと鳴って目をきつくこすった。 (真っ赤な真っ赤な夕日が差し込んできた) (まるで全てを終わりと告げるように) 「あれれ」 自分のクラスの教室に戻ってから、私はある事に気がついた。 ペンがないのだ。そう、あの折れたペンが。このままほっておいても差し支えないが、あれは長年使ってきたものであって私にとっては愛着のあるものだった。だからほっておけなかったというか、なんとかで。気がつけば教室を飛び出して憂鬱な授業を受けた教室へと向かっていた。 きっと、まだあるはずだ。あんな古ぼけた折れたペン誰がとるっていうのか、いたら聞きたい。 しかし、あのペンを手元に置いてあっても邪魔になるだけで、新しいペンを買わなければならない事が今私の心を占めていた。 教室の前に来てドアに手をかける。どうやら開いているみたいで。 開けたら眩しい夕日が目に差し込んできて 「おせーよ」 まるで幻想みたいだった。 ペンではなくあったのは、いや、居たのは、窓際に持たれかかる小林和樹で、だけどよく見たら彼の手にあったそれ。無残に哀しくも折れたペンがあった。どうして彼があんなものをにぎっているのだろう。 そして、おせーよ、ってどう意味なのよ。分からない。どうやら私のちっぽけな頭じゃ分からないみたいです。 「待ってたの?」 「ああ」 「私を?なんで?来るかなんて分からないのに?」 「でも来た」 彼に歩みよると、余計にまぶしい光がちらつき、目がくらんだ。 「お前このペン気に入ってるだろ」 目の前に突き出された折れたペンを見て、私は、やはり新しいペンを買わなければ、と再度思った。 『へー、和樹ってあの子が好きだったんだ』 |