「あ・・」





「・・・・あ?」






―――― 私は彼を地獄耳と呼ぶ。







「何だ?」



アイツが私のほうへ振り向いて足早にこちらへやってきた。
距離が縮まっていく。


いやいやいや、来ないでよ!心の中は、慌てふためいていた。
そんな私のあほ面が気に食わなかったのか、アイツは渋い顔をして「なんだよ」と口を尖らした。


だって、慌てるのも無理はない。


先ほどの私とアイツの距離は
およそにして50メートルはあったでしょう。

本当に小さくてかすかな呟きだった、のに
周囲もそれほど静かではないのに・・・



「あんた人間じゃないよ(ぼそぼそ)」
「ああ!?聞こえてんだよ」
「ギャ!まじで、こわーい!」



大きいリアクションをとって悲鳴を上げてみれば、アイツは引きつった顔で「バカ」と言い放ち、来た道をシャカシャカと戻り歩き出す。


あれほど離れていても聞こえる耳に感心しながら、今度は力いっぱい空気を吸って
「地獄耳ー!」と叫んだ。



「うるせーよ!」

地獄耳なんて最悪だ。うかつに独り言もしゃべれないじゃんか。
私はその場で立ち尽くす。


だったら言ってやる。
きっと聞こえない。
聞こえないように、小さく、小さく。

「好き」









「知ってるっつーの!」
「!」







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