「太郎はバカ」 「太郎はアホ」 「太郎は天才」 「太郎はバ・・」 「ちょ、ちょっと待ってよ!さくら!」 何がどうなって、バカとアホなのか 結果的にはどうも ない * ・ ・ ・ * ・ ・ * ・ ・ ・ * ・ ・ * ・ ・ ・ * ・ ・ 今まさに何故だか知らないけれど、そこら辺に生えている花をむしり取ったさくらは花びらを一枚一枚とっていくという行為に及び、しかもその度に「バカ」「アホ」「天才」という単語を発するのだ。これは、まさに、女の子らしい花占いというものであった。隣で太郎はその様子を微笑ましく見ていた。だけど笑顔で一枚一枚花びらをとっていくさくらは、自分の名を出し、罵りながら占っていて、しかもその何だ。天才は許せる。これはいい。だが「バカ」、「アホ」はこの僕に対してありえないだろう!と心の中叫び、さくらの手をつかんでピタリとその花占いを阻止したのであった。確か僕達は中庭でお散歩をしているはずだ。何故さくらはいきなり花占いというものをし始めたのか。 太郎の眼鏡がカタカタ揺れ、それをさくらは不思議そう見て、何で止めるの?と言いたそうな口調で問う。 「ちょっといいかな?」 「今忙しいの」 「花占いが?」 「邪魔しないでよ、太郎」 「(ガーン)」 もはや自分は花占いよりも劣ると言うのか。そして花ごときにバカかアホか天才か決められてしまうのか?太郎の頭の中には大きなミステリーのようなサークルが渦巻いていて眼鏡がとうとう鼻下までずりおちていた。 さくらは、また花に目を戻して花びらを掴む。先程の言葉にかなりのショックをうけていた太郎だったが、それでも尚、悲しさをばねに再び立ち上がった。その間に、幾つか花びらの枚数が減っていたことに少なからず焦り始める。 「あのね、さくら」 「何よー」 「太郎はアホ」と言いながら花びらを1枚とったさくらに内心汗をかきながら、何故こんなにも焦っているのかなんて分からない。だが今ここで自分がバカやアホになるのだけは阻止しなければいけないことだけは、自分の中でハッキリしていたのだ。 さくらはとった花びらを地面に置いて「なに?」と太郎に聞いた。 「その花びら、10枚だよね」 こんな事ぐらいで泣くのも可笑しいけど、太郎は流れてきそうな汗なのかそれとも分からないが涙か、必死で流れてこないようにした。太郎の言葉にうーん?と可愛く首をかしげて(太郎論)さくらは地面に落ちている花びらと、まだ。さくらの手の中にある花びらの数を数えて、確かに10枚だったので「それがどうしたの?」と分からない様子で。だけど太郎はその様子に安心して一息ついた。わざとではなかった。 残り、花びら3枚 僕も散るのか 「10枚だったけど」 「じゃあさ、「バカ」「アホ」「天才」って言う順で、しかも花びらが10枚」 「うん」 「どう考えても、それじゃあ僕がバカという結果になるんだよね」 どこかで鳥の鳴き声が聞える。だけど今の太郎にはその鳥の鳴き声が脅された人間の悲痛な悲鳴に聞えた。それほど太郎の神経は磨り減っていたのだ。だけどそんな気持も露知らず、さくらは目を輝かせた。結果が分かった途端、まだ3枚残っている寂しい花をポイっとそこら辺に投げて太郎の鼻までずり落ちている眼鏡をヒョイっと取った。 「さくら!眼鏡返してくれないか!」 「太郎ってやっぱりバカだったんだね!」 アイム ソーリーソーリー これも愛なんだね、さくら、受け止めるよ、あはは 嬉しそうにキャッキャと笑う声が聞えて、太郎はぼやける視界の先に嬉しそうな自分の眼鏡をかけたさくらを見た。ていうか、さくら。「やっぱり」って何。やっぱりって!僕はずっとそんな風に見られていたのか、このまま花びらと共に散りたかった、と寒い心を抱きしめる。 「太郎、太郎!」 「何?(愛が痛いよ)」 「私は!」 と、顔を上げた瞬間視界がハッキリとしてさくらの大きな声が目の前から聞えてきて 「私はバカでもアホでも天才でも太郎が大好きよ!」 一生、大切な人よ! ハッキリとした目で見えたのは、清々しいほどの笑顔でいっぱいのさくら。僕はどんな愛でも受け止めてあげるよ。でもね、 「僕はさくらの為だけにバカになれるんだよ」 * ・ ・ ・ * ・ ・ * ・ ・ ・ * ・ ・ * ・ ・ ・ * ・ ・ (君のためならどんな事でも出来てしまうんだ) |