You probably are that you do not know that always it is the in me.
I your thing, this tear keep putting the far side of forgetfulness.



とてもじゃないけれど、近づくなんて何年かかったとしても無理だ。
というか多分、一生近づくことなんて出来やしないのだ。だって、彼は同じ寮の休憩室(通称”ひっかけ部屋”)にいるのに別の場所にいるみたいな特別なオーラを明らかに放っていて、それがわざとではなくて無意識のうちに流れ出ているものなのだからすごいのだ。何よりも彼は女の子たちの“王子様”なのだから。(王子様なんていうむず痒さを与える言葉を口にするなんて、とても恥ずかしかったのだけど、彼にはぴったりでむしろ似合いすぎているほどで王子様と毎日連呼するルームメイトを私は止めることは出来なかった。)バカ騒ぎの毎日を送る彼女の話に、私は話半分、それ以下でとりあっていた。



「そろそろ部屋に戻らない?」
「いやよ!バカなの、あり得ないわ」
「絶対?」
「あんたを殴ってでもね!」


ふん、っと何を威張っているのか鼻を鳴らしてそう言い放った。言い放たれてしまった私といえば呆れて溜息さえも出てこないような状態だった。毎日毎日、見ていて厭きないのかなぁと思う。心底思う。ルームメイトは今、頑なに何をされても、動くことはないのだろう。彼女の腕を引っ張って連れて行こうとしても、彼女は長袖の上着を脱ぎ捨て、私の掴む力から逃れるだろう。
何をしても、返り討ちにされそうなぐらい恨まれそうで、この部屋から出ようとしないそんなルームメイトであるマリアンヌ嬢は思い切りこちらを見て「私に歯向かうのは許さないわよ」というような言葉を投げかけてきた。ああ。何でそこまで彼に執着できるのかが分からない。というか、別にそんな事分かりたくもないから適当に。いつもしているように、彼女の赤くなった顔と鼻息の荒い音を横目に聞き流した。私は何て最悪な人間なんだろうと思ってしまう。友達ではないが、他人というわけでもない。生活を共にするパートナーだ。こちらは学校生活がかかっている。もっと大切にしようよって自分でも突っ込んでしまうのだけれど、無理だ。彼女は歩み寄らない。知らない。知ろうとしない。彼女は私には無関心だ。ただ黙って自分の話を聞いてくれる従順なロボットかなにかと思っているに違いない。彼女から聞かされるのは、誰かの悪口か、根も葉もない噂の類い、王子様のこと、そして彼氏の愚痴ばかりである。私が声を発することはしてはいけないことだった。ただただマリアンヌの機嫌を損ねないこと。

興味のない話を永遠と毎日何時間も話されていたら、どんなに仲の良い友達同士であったってさすがに嫌気がさすに決まっているし、そんな私の心情を彼女は微塵も感じ取っていないのだからどうしようもない。どうしろというんだろうか。

しかし、そろそろ部屋に戻りたいというのが本音。今日は特に疲れた。別にいつもと対して変わらない日だったのだけれど、こんな人が近くにいるからか。たまにこんな風に非常に疲れる日が襲ってくるわけで、早く眠りたかったのだ。良い子が寝る時間はもうとっくに過ぎている。どうせなら、彼が早く寝るようにと習慣づけてくれればいいものを。それなら彼を追っかけている女の子は夜遅くまで目を見開けていることもないだろうに。と、そう思って思わず笑いが出る。彼は全く持ってよい子でもない。ああ、これじゃあ一生、平和はやってこないな。



「じゃあ、私先に部屋に戻ってるね」



その言葉に返事はなくて、黙ってルームメイトの元から離れていった。恋人がいる人にとっては、まだ夜は始まったばかりなのだろうけれど、関係ない。とにかく眠い。早足で自分の部屋に帰った。

今夜は彼女は何時まで粘るつもりなのだろうか。もしかしたら、彼は他の女とどこかに消えて、その姿を悔しそうにルームメイトは見届けて鬼のような顔をして帰ってくるかもしれない(むしろ、そういう日しかない)。そして、次こそは彼と一夜を共にしてやると決意するマリアンヌは鼻息が荒い。黙っていればかわいいのにな・・・と思ってしまっても何も言わない。王子なんて甘いものじゃない。女の子は毎日とっかえひっかえで遊ばれているだけだ。ヤルだけの相手なんて最低だ。そんな関係にルームメイトがならないように、これ以上、波風立てないでと心の中でひそかに祈っているだけである。







★""キラキラ キラ
目を瞑れば星が輝いていた








ベットの中に入って目を閉じて数時間、たぶん夜中だろうか。マリアンヌの怒るような悲痛な叫びと共にドアの開く音と閉まる音が聞こえて、『ああ、今日も彼は他の女と出て行ったんだな』と頭の中でぼんやりと思った。まだルームメイトが何かを言っているけれどぼんやりしていて分からない。でも、そのうちその声も止んできっと彼女も眠りに着いたのだろう。しかし、どうしてルームメイトも他の女の子も嫌いにならないのか、私には不思議だった。不思議で仕方がなくて、そこまで誰かを好きだと思える彼女たちが羨ましくて仕方がなかったのも事実だったのかもしれない。そう、自分は逃げているだけなのだ。

忘れよう、こんなことで明日を最低なものにしたくない。ルームメイトが威張るように「アンタに素敵なプレゼントを用意した」と言ってくれているのだから。気をつけないと何が起こるかわからない。振り回されないようにしよう。

そう、明日は私の誕生日。



ああ、彼は覚えていないのだろうか。


――きっと、覚えていない。



覚えているはずがないのだ。まだ、入学して間もない頃に話したことがあるなんてこと覚えているはずがない。だって、今は目が合ったとき向こうはすぐに目を逸らすし、本当にただの他人だ。


それなのに、私のほうはこんなにもハッキリと覚えている。なんて、不公平なんだろうか。どうして、自分だけが覚えているのだろうか。閉じている目から涙が溢れて出てきそうだった。ぐず、っと鼻が鳴る。





『俺らさ、卒業するとき、お互いに恋人がいなかったら付き合おうぜ』




まだ、日本を離れてすぐのころ。たどたどしい英語を話していたから図書館に通い詰めてひたすら必死に勉強に追われていたときだった。たまたま彼と向かい合って座っていて、話しかけられた言葉というのがこんな言葉だった。どんだけたらしなのかと思うようなその第一声。その時、私は一瞬、全身を凍らせ他のち一気に頬を赤くして『え、遠慮しておきます!』と必死で答えたのだった。

何てませた男の子なんだろうと思っていて、その返事に彼は噴出して大きな声を出して笑い出して、それを見ていた私も一緒にいつの間にか笑ってしまっていたのだ。その後、すぐに注意されて笑いは堪えたのだけれど、いつまでも顔は歪んでいて彼とずっと一緒にいた。彼はにやりと笑って『約束な』と付け足した。思えば名前さえもお互いに告げていなかったのに何故いきなり付き合うという言葉が出てきたのか不思議だったけれど、その時の私は親元を離れ一人慣れない環境でかなり悩んでいたから、この出来事は救いだった。辛くて、言葉が通じないことに毎日ひとりで泣いていたのだけれど、彼と大声で笑ったことでその日から何かが変わった気がする。そう、言葉がなくてどこかで分かり合えるということで、そんなにも大きな声で笑っていたら自分の悩みがバカらしくなってきてしまったのだ。そして、図書館での交際の約束から私と彼は会うことも話すこともなかった。私が彼の名前と彼が遠い王子様であることを知ったのはその後すぐだった。生活に余裕が出来て周りを見渡す余裕が出来てから分かったことは多い。彼は多くの女の子に好かれていて年を重ねるにつれて彼の周りにはそういう1夜限りの女の子が何人も存在していた。こんなの、忘れているに決まっている。


私のことは、入学当時の慣れぬ季節。たまたま見かけた百面相している日本人が珍しくて話しかけたのだろう。そして、慣れぬ環境、留学に悪戦苦闘していた私を憐れんで言った言葉だったんだ。同情心、と面白半分。何となく言った言葉で、少しからかっただけだ。




忘れよう、こんなことで明日を最低なものにしたくない。
約束は、もう存在していない。彼の中からも私からも消えているんだ。



私の中に王子様はいない。






君は忘却の星に



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