「この世の外って信じる?」 俺はお前の方が信じられねぇよ この世の外へ 行ってみたい、逝ってみたい 深夜、真っ暗な彼の部屋で、彼の隣に座りながら、半ば倒れこみながら、コーヒーの小さな白い湯気を見つつ、浅い眠りに入ろうとしているときだった。顔にかかった何かに目を開けた。見なくとも分かってはいたが。だけど目を開けた途端、吃驚したと言うより溜め息が真っ先に出ていたことは確かだった。何故こんな真夜中にこいつの隣にいるのかなんて・・・ニヤニヤ笑っている顔が真っ暗な部屋の中でも、チラチラと見える。 ねぇ、ねぇ! くだらない事だったら殴るからな えー!くだらないことじゃないよ! ていうか、お前がここにいる時点で俺にしたら鬱陶しいこの上ないんだけど そんな嘘ついちゃってどうしたの いや、嘘じゃないし。あー、もう何だよ。早く言え ダンはさ、この世の外って信じる? 俺はこの状況を如何しようか考え始めた。幾分、サラから出てきた言葉は俺には理解できないモノで、ていうか分かりたくないモノであって、いつの間にか隣に座りこけてヘラヘラ笑いながらしゃべりながら、この世の外ということについて熱く語っていたサラに(何故そこまで熱くなれるのか分からないが)何を言えば良いか全く分からなかった。この世の外ということが分からないからであって、それ以上にサラという人間自体も分からなかったからだ。分からない。分からない、何を言えば良いのか。 「あー!ダン聞いてる!?」 「大声出すな、今は夜中だ」 「うっさい!」 「お前だよ」 「あー、あー!ダンってこの世の外って信じる?」 「それって天国なわけ?」 「知らないよ」 ヘラっと笑うサラの頬を本気で殴ろうか、つねろうかと思ったが今はそんな力が残っていなかったらしく、というか今、なんかしたらギャーギャー騒がれるのがオチなので何とか拳を握り締めて耐えた。本気で如何しようかと思った。 自分にとって、唯一の場所はここしかない。、そしてサラもそうなのだと思うが。 「この世の外って信じる?」 狂ったのか。その言葉を繰り返し問い続ける、その言葉に、俺もまた何かが、壊れ、外れたように狂う気がした。何もかもがどうでも良くなってきてしまった。いや、初めから理性や真実などここにはない。 ダン、ダン 何? 冗談でしょ? 別に冗談でもない 当たり前!冗談で押し倒されたら怒るよ 真っ暗な部屋に、たった2人。まだ温かいであろう、コーヒーの匂いと、サラのヘラヘラな声が、何もかもが遠くに感じる。 「この世の外って信じる?」 「黙れ」 「この世の外って信じる?」 「知らねーよ」 どこから狂い始めたのか、俺は早々にこの部屋を出ていくべきなのか。そもそも、ここは俺の部屋だ。何故俺が遠慮するのだ。普通にいつもどおりこいつが居れば良かったのだ。そう、いつもどおり俺の邪魔にならないようにと。だが何故、サラは今日に限って煩わしい。 何だ、この気持ちは? ダン、ダン! 聞いてと言わんばかりのサラの声を無視して、俺はサラの唇を噛むようにキスをする。暗いはずなのにサラの仕草や表情、呼吸、心臓の音、全てがまるで自分の一部になったみたいに分かってしまう。 「実はずっと思っていたの」 「何を」 「ダンの特別になりたいって」 「何で」 「ダンが好きだから」 「冗談?」 「ねえ・・・いきなり押し倒されても、平気で笑っていられる女の子の理由、知ってる?」 「知らない」 「その人が好きだから笑えるんだよ」 ふーん あ、何その反応! 別に ダン、照れてる 何で分かるんだよ 真っ暗でもダンのこと分かるんだよ これこそ愛の力よね!とヘラヘラ笑うサラがとてもバカだと思った。だけど自分もバカだったようで、少しだけサラに近づけたような気がしたのだ。 サラは俺の腕をぎゅっと掴む。 「天国だと思うの」 「何が」 「この世の外」 まだ、その話は続いていたのか、と心の中で突っ込んだ。 ダンとなら一緒に行ける気がする 俺を殺す気か 私のために死んでよ 俺のために死ねよ 「じゃあ、ダンは私を殺してくれる?」 冗談だよ、とサラがヘラリ笑った。 |