ぎゃぁ!7時過ぎてるしっ!

佐藤ゆず、またしても寝坊により、遅刻寸前である。



※※※


私には俗に言う幼馴染がいるんですけど、そりゃあ、もう少女漫画のヒーローのようにカッコいい奴なんですよ。もう、コンチクショーって言いたくなるぐらい完璧だしさぁ!キー!!思い出しただけでムカつくっ!

でもさ、何かそう言う話って、引っ付くっていうのが、当たり前って言うか定番って言うか、まぁ、それはいいんだけどさ。いや、良くはないけど!

だって、うん。私も好きだよ?アイツがさ。


でもでも、もしヒーローが2人いたらどうなるんだっけ?



あー。久しぶりに少女漫画買ってみようかな・・














レモンジュースとイチゴジュースと関係















ドタドタ

ガラガラガラ、バターンッッ!!





「ま、間に合ったぁ〜・・・」



朝、私が教室の戸を勢いよく開けて言った言葉はコレだ。
しかし、皆は思い思いに雑談したりと休憩中。視線痛いなぁ・・・
またか・・・そう思いつつ皆がこちらに向いた視線を戻す。もう慣れた。
これは、いつもの事だ。私はよく寝坊し、遅刻魔で有名。


「また、寝坊かよ。大方、食い物の夢でも見てたんだろ」
「うるさいわね、アンタだって、この前、寝言で「ママ」って言ってたわよ」



毎度のごとく始まるヤツとの口喧嘩
別にしようと思っているわけではないのに。もう、これは蛇とマングースのような関係なんだろうか・・?そう思うと、心の中溜め息する。
だって、私は少なくとも俊介が好きなのだからさ!

誰も、この私たちの言い争いを止める事はない。
コイツとは幼馴染という素晴らしい関係で繋がっている。
ニヤニヤしている俊介をキッと睨みつけて、私は椅子に座る。
隣のケイ君が話かけてきた。

「おはよう、ゆず」
「おはよー」


今日は、起きてすぐに学校へきたから、朝ご飯はまだ食べていない。台所にあった、あんパンを適当に鞄に詰め込んで家を出てきたのである。

「今日はギリギリだったね」
「はむはむー(そうなのよー)」

パンに被り付きながら返事する。

「こら、こら。口に物を入れながらしゃべっちゃ駄目だよ」

ケイ君と俊介と私は幼馴染であるんですよね。
2人とも、あり得ないほどカッコよくて。あーもう!何でこんな奴らと幼馴染なのか!?嬉しいけど、嬉しくなくて。幼馴染というのは特に微妙な関係だし。しかも、2人と幼馴染だけで私まで目立ってしまう!!この前、女友達に愚痴ってたら「あなたも、目立ってるわよ?」と言われてしまったのだ。
遅刻は直そうと思うが直せないのが痛いところだ。
別に、食べ物の夢を見ていたわけじゃない。健太郎の夢を見ていただけなのである。
健太郎はとても利口な犬だった。小さい頃に出会い、そして死に別れた家族である。
ああ、思い出したら、泣きたくなった!

「ゆず。ほっぺた、餡子がついてる」

そう言って、ケイ君は頬についている餡子を手で拭って、ぺろりと舐めた。

ケイ君は優しい目をして微笑んでいた。
私はふにゃりと頬がゆるむ。
穏やかな空気を纏う。

「お前らさ、付き合えば?」

それは、私とケイ君に向けられていた。
発言したのは、俊介だ。











ブフッ





「うわ、あぶねぇ!」





私は、その時ちょうど飲んでいたお茶を噴き出しかけた。





だって、だって・・・!

今、付き合えって!?




何言ってんだよ、ああ?私はアンタが好きなんだよー!!まぁ、知らないだろうけどさぁ!ていうか、何、私ってやっぱタダノ幼馴染だったわけ?少し、期待してたのに。そうなら、私って何か惨めじゃないの。あーあ、こう思ってしまうなんて、やっぱ私って俊介が好きだったんだーって改めて思い知らされたし。幼馴染ってラブラブになるのって漫画だけだったのかな・・・。うがー、それにしても今の発言はあり得んよ!!お前さん!



「大丈夫?」



ケイ君が私にハンカチを渡してくれた。

ああ、やっぱケイ君は優しいなぁ


ケイ君は優しくて温かくて、甘くて私に酷いことを言ってこない。これは幼い時からそうだった。もしも、もしもだが、ケイ君をジュースに例えるなら、イチゴジュースがバッチリ合う、しっくりくる。そう考えてしまうときがあるのだ。今だって、思ってしまったし。
そして、彼がイチゴなら俊介はどうか。ああ、ヤツは酷い。酷すぎる。私に対する数々の暴言。もしかしたら、私は侮辱罪でコイツを訴えて大金を巻き上げれるんじゃないかと日々、ふつふつと煮えたぎっていることは、まだ誰にも秘密。
そして、考えた末。ヤツはレモンジュースに決定された。炭酸が効いていれば尚良し。シュワッ、シュワッ!の辛苦いレモン。
あのスカットくるレモンだ!すっぱくて、鼻が痛くなって、ムカつくのだ。すっぱいだけの、まったく甘くない。





「付き合えばいいだろ」

冷やかし半分なのか本気なのか分からないけど、今の私にはその言葉は毒だった。


「俊介、それ本気?」


まるで、私の心を代弁したかのようなケイ君の返し。
私は俊介の顔を見る。ヤツは笑っているではないか。


「本気も本気。男が出来たらコイツも少しは女らしくなるんじゃねえの?」




はっきし言って、これはセクハラだ。




「俊介、君はそれで良いんだ?」
「いいに決まってるし」

ああ、早くあんパン食べきらないと。何故か意味の分からない使命感が芽生える。もはや、これは逃げだ。

「僕は小さい頃から、ゆずが好きだよ」


ブフゲハァ!

あんパンを頬張り過ぎている所に、ケイ君の爆弾発言。あんパンを噴き出しかけ、むせる。



ケイ君が私を好きなんて思っても見なかったし、思えるはずがなかった。だって、ケイ君は多分、俊介より数倍いい男だ。いや、両者比べようにならないくらい、いい男でカッコいいけどさ、性格は断然ケイ君が素敵!
だから、だから、嘘でしょ!?しかも、小さいときからって・・・えぇ!


「僕はゆずさえよければ、付き合いたい」

もはや、噴出すものはない。

「何迷ってんの?」
横から茶々を入れてくる俊介。うるさい。もとはといえば、こんな事になったのは、アンタのせいだ。
俊介を最高に殺気づいた目で睨み付けてやった。
だが、ヤツは、ハっと鼻で笑った。むかつく!!

「お前をもらってくれるヤツなんてケイぐらいだろ」




この言葉に私は宇宙を見た。





























遠くでケイ君が俊介を叱っている声が聞える。
ああ、いい幼馴染をもったなあ。
健太郎に会いたいよ。




























「いいよ」
「え?」



自分でも吃驚したほどだ。




「私、ケイ君と付き合う」
「本当?」
「うん、私もケイ君が好き」




もはや、宇宙を見てきた私にとって俊介なんて星屑の人間だ。
ケイ君が好きな事はうそではない。ただ、俊介を好きだという感情が大きかっただけなのだ。

目が合うとケイ君は微笑んでくれた。
俊介なんかより数倍はケイ君の方がいいと、みんな思うに違いない。私は間違っていない。
言い出しっぺの俊介は何故か不満な顔だった。


「これで、お前も少しは色気づくんじゃね?」
「うるさい。黙れ、俊介」



























俊介はレモンジュースでケイ君はイチゴジュース




























私たちの関係はこの日を境に壊れ始めた。






























ジ エンド







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