もしこの世に自分しかいなかったらどうする?


それはそれでいいかもしれない。だって自分を嫌う人がいなくなるなんて嬉しいでしょう?

けど一人は寂しくて私はきっと死んでしまうんだと思う。



うさぎって寂しいと死ぬんだ、って言うように






















セントポーリア

























水木(みずき)ナナ≫
彼女はいつでも人の目をひいていた。

11月という中途半端な時期に、ここに転校してきた女だった。

遠いところから、やってきた彼女は、それはもう【よそ者】だった。

幸か不幸か、可愛いらしい顔立ちをしており、何よりも、彼女はいつも笑顔だったのだ。



そんな彼女を見ているとむかついた。

いつも笑顔なヤツ・・・何がそんなに楽しいんだ?


見ているとこっちがイライラする。

あーゆーヤツは苦手だ。




「シン、先に行っとくよー」

「はぁ!?おいちょっと待て!・・・」


シンの声を聞く前に、カズキはすでに行っていた。




「たくっ・・・」

カズキが行った方向をひと睨みしてから、終わっていない課題を睨みつける。


今日提出の課題。

すっかり忘れていたシン・・・


つーか、何でアイツらはやってるんだよ。

一緒に遊び呆けていたくせに。


「ありえね・・・」


だが、さすがのシン。
文句を言いながらも集中さえすれば、確実に課題は進み、そしてすぐに終わった。


「行くか」

もうそろそろ授業が始まるな。


立ち上がって無人の教室を出て行く。

そしてすぐに目に入ってきたのは彼女だった。



また笑っている。



そう思った時





「あっ・・・!」


彼女の驚く声が廊下に響き渡る。





「ちょっとぉ、水木(みずき)さん、大丈夫ぅ?」

クスクス

周りにいた女子達が、今まさに悲鳴を上げながら見事にコケた彼女に、冷たく意地の悪い顔で言った。


「あ・・・、うん大丈夫」

起き上がりながら笑顔で返答する彼女。

少しスカートが汚れたのか、それに気がつきホコリをはらう。

運が良く持っていた教科書が、飛び散らなかったことに安心する。



「本当、ドジねー」

「亀より遅いんじゃない?」

イヤミったらしい言い方だ。

「あはは」

しかし彼女は頭の後ろを掻きながら笑っている。それが面白かったのか周りの女子達は上品に口元に手を当てながら笑っていた。


クスクス

そして、ひとしきり笑ってから、周りの女子はいなくなった。

シンはその光景を他人事のように見ていた。(うん、まあ他人だけど)


むかつく

むかつく


何なんだよ。あいつは


何で笑うんだ?


そんな気持ちを抱きながら、次の科目の教室に向かう

ノロノロと亀のように歩む彼女を追い抜こうとした。



「わぁ!?」




バサァ――・・・!!




「・・・・」


彼女は、とろい足をどう絡ませたのか、またコケた。

そして今度こそ運はなかったらしい。教科書は辺り一面に豪快に散らばった。


しかし、コイツ・・・障害物などない道を、とろいスピードで歩いていたくせしてコケたのか?


馬鹿だ、この女。

シンは横目で彼女を見る。


笑っている・・・・

腹が立つ。こんなにむかつくのは、久しぶりかもしれない。


ふと足元を見れば水木ナナと書かれたノートと
開かれた状態で自分のところにあった教科書。

彼女はその教科書に気がつかない。

必死で他の教科書を集めている。
だがその慌てぶりが空回りして、教科書は一向に集まらない。落ち着けよ。焦り過ぎだろ・・・。

「はぁ・・・」

しょうがない。

ここでほっとくわけにもいかない。

「おい、水木」

シンの声に反応して、水木ナナは振り向く。



「気をつけろよ」

ノートを拾い、汚れをはたきながら、言い放つ。


「あ、ありが・・とう」



ふと開いていた教科書のページに目をやった。


「・・・っ」

目を見開く

そんなシンの様子を見て、ナナは笑った。


「何だよ、これ」

その教科書は使い物にならないぐらい落書き・・・いや暴言で埋め尽くされていた。

“死ね” “消えろ”    “キモイ” いろんな言葉。あらゆる悪意の塊でしかない言葉たちが目に入ってきた。


何て古典的なイジメ


だがそれは辛いものだろう

しかし水木は笑っている。


・・・・いや、笑っていない?

悲しい笑顔


そう見えた。


分かってしまったんだ。
ああ、本当は何も見えていなかったのか。
いや、見ようとしなかったのだ。




「大丈夫だよ」

ナナはそう言ってシンから教科書とノートを受け取る。


「早く行かないと遅刻になるよ?」


だがシンはその場から動けなかった。


気がついたときには周りには誰もいない。

彼女もいなかった。


彼女は笑っていた。

それが彼女の精一杯の強がりだったんだろうか。


何も知らなかった。

それなのに笑顔の彼女を煙たがって、勝手にムカついて


そんな自分がどうしようもなく最低だと思った。




暗い顔をしてるより笑顔でいる彼女。


笑顔でいることはどんなに辛いだろうか。

どんなに悲しいのだろうか。

どんなに強くあろうとしたのだろうか。


まるでもう笑顔しかできないような・・・

いつから彼女はあんな想いをしていたのだろう













































俺はもう、水木ナナを馬鹿な女と思わない。


思えるはずがないだろう































彼女はきっと今も笑顔だ。


そんな彼女から目が離せなくなったのはこの時から・・




いや、本当は初めから惹かれていたのかもしれない








自分に何ができるか分からない










































だけど、とりあえず今は授業に遅刻しないようにしよう


シンは新たな気持ちを胸に進んだ。








































悲しい


私が何をしたって言うの?



誰でもいいから私を好きだといって

じゃないともう笑えないよ

         セントポーリア




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